耐震補強のために、町家の構造特性を考えます。
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ウナギの寝床
町家は人々が近接して集住するタイプの民家のことで、農家民家のように広い敷地に独立して四方にのびのび軒を伸ばすのとはちがう構造特性があります。
町家は、道路から見て両側の壁が隣のうちと接して建っている、もしくは連棟の「長屋」となり界壁そのものを共有しています。多くは隣家に雨水を落とさないように軒先を道路に向けて下ろす「平入り」と呼ばれる形式で、流れ方向に軒が深いですが、妻側(けらば側)には屋根の出が少ないことが多いです(地域によっては「妻入り」もあります)。
集住することや江戸時代の課税方法などから、多くは建物の正面の幅が狭く奥行きが長い土地に、一棟もしくは複数棟が並ぶこととなります。当然そうした状況で建物を建てなければならないことから、敷地の内側から施工できる構法が発展し、側壁の土壁の下地などが片面だけ処理されることもあり、ときには構造的な弱点をもっています。
通り庭
平面的には幅の狭い「通り庭」と呼ばれる土足で行き来する土間の通路が入口から建物の奥まで通り、その上が「火袋」といってかまど・台所の上部が吹き抜けとなった部分をもっています。「火袋」に面した柱をみるとわかるように、玉石上から母屋(屋根)まで細長い柱が通っています。
側柱などが棟木・母屋まで達する架構は京町家型の典型で、この側柱の並ぶ面では2階床を受ける横架材(在来軸組みの胴差)がなく、小梁が側柱に刺さります。一報在地型といわれる民家では1階で一旦全て柱が途切れその上に2階の柱が載る架構となることが多いく京町家型より固い印象の建物になります。
側面は隣地境のため概ね壁ばかりであるいっぽう、狭い間口方向は、差鴨居や襖・障子はありながら、耐震上有効な壁がとても少ないといえます。
また奥行き方向に長い建物に屋根を流すとその勾配故に中央部でとても高く大きな小屋裏を持ち、それを支える壁や構造が必要になり、結果建物の重量も増すこととなり、耐震上は不利になることが多いといえます。(薄く切った羊羹が横に倒れるようなイメージ)
ツシ二階
いっぽう二階建てといっても時代が古いものほどツシ二階という、二階の軒が低く、それが時代が下るにつれ、現在の本二階の高さになってきます。よって、そうした二階の高さや使い勝手によって構造特性が違ってくることとなります。
つまり京町家にも二階座敷が備わるような本二階建てと二階をほとんど使わないツシ二階建て、その中間ぐらいのものがあります。
深い軒の出
町家の多くは奥行き方向に本体構造にプラスした下屋を持ち、町家らしい軒の深い軒下空間を持っています。建物正面の軒下には大戸と呼ばれる頑丈な板戸を建て、内側に格子戸を入れ、通りと室内を区切ります。
こうした軒下空間は、人の行き来や商家の店先といった都市的な使い勝手を持ち、重宝されます。軒を深くするための出桁造や、店先を広くし柱を減らすための人見梁(背が高く正面間口一杯の長い梁)などが見られるのも町家の特徴です。
横架材を加えて、耐震リングで弾性のある補強
本屋普請と借家普請
また同じ町家でも本屋普請と借家普請では大きく軸組の材料や部材寸法が違うので、それらの仕口の優劣(強度)も自ずと違ってくるので、耐震上こうした要素の見極めが耐震診断を大きく左右することになります。
つし二階の場合に通し柱が備わってない場合は、特に二階の損傷が激しくなることが見込まれるので、見かけだけでなく柱の太さと通し柱の位置を見極めないといけません。
都市の文化的な背景のもと、お茶室や料亭を思わせる数寄屋普請の町家もあります。丸太使いが多く細い部材を見える部分に使います。見えないところで桔木【はねぎ】や野垂木で補強していることもあるので構造の本質をつかむことがとても肝要です。
要は、強く見せているところが本当に強いのか、華奢な部分が本当に弱いのかを見極めることなくしては、町家の耐震要素の評価ができないといえるのです。
町家の耐震診断 チェックポイント
- 本屋か借家か?
- 柱の材種・・・栂・桧・松・杉→より経済的な普請で概ね材も細くなる。明治後期以後は外材も多い。
- 床の間廻りで柱を抜いていないか?
- 見えない側柱廻り、特に水回りで腐朽がないか?沈下はないか?
- 屋根下地は丈夫か?
- 火袋など後の改修でバランスの悪い固め方をしていないか?
京町家の板図から「小屋組」
建物の印象をみつめ、安全な建物にするために特徴を見極めましょう。相談からでもお役に立てたらうれしいです。