関塾の蔵 曳き家の様子(回転、水平移動)
曳家の工程
準備
曳家は建築基準法上の「建築行為」であるため、建築確認申請が必要です。また登録文化財などでは現状変更の届け出も必要(国に提出)です。ほぼ水平を保つので建物内ではほぼ通常の生活をすることができるほどであるので、取り立てて家財を外に出す必要はありません。
電気配線や設備配管などをあらかじめ切り離しておくことが最重要。
切り離し
まず移動させるために建物の本体を地面から離します。
並行して移動先に基礎を作ります(移動後、台敷を引き抜くだけの切り込みをしておく)。その間に建物本体が移動時にその状態を保てるように、支える桁梁(木製または鋼材、台敷)を建物の下に通す作業を行います。移動中の基礎代わりになる井桁組なので大断面(大きな部材)が必要となります。
布基礎上の土台に柱を立てている建物は比較的容易ですが、玉石建てで独立した柱が下に伸びている伝統構法の建物ではばらばらの柱を井桁に緊結する必要があるので曳家の専門家の技術が問われます。
離陸・揚げ前
建物を支える井桁ごとジャッキアップするなどして垂直に上げます。
建物に損傷を与えないように、各所に設置したジャッキを少しずつまんべんなく、かつ、少しずつ上げていきます。木造家屋では人力でもあがります。ジャッキは一基あたり、15-20トンのもの馬力のものを使い、建物の荷重に応じて、また台敷の状況により配置と数をバランスよくすることが曳家技術の根幹といえるそうです。垂直ジャッキは油圧でおおよそ20cmの上下が可能なので、その限界ごとに枕木などをかませて(下に挿入して)ジャッキを盛り替えながら少しずつあげていく行程を根気よく繰り返します。
移動-押し・引き-
移動させる経路にレールを敷く、または枕木などを並べ、コロが円滑に動くようにしなければなりません。
持ち上げた建物の下にローラー(車の着いた台)やコロ(鋼材でできた太い棒)に載せて動かします。
ウィンチ(鋼製縄と滑車)で引く場合とジャッキで押す場合があり、人力や重機で動かします(綱引きの要領で人力でもできる、重機のない時代も曳家はたくさんあった)。
曳家用のローラーは上部に回転する露台を持ち、方向転換を含む曳家にも対応します。押す場合の水平ジャッキは伸び足が50-60cmで、これも尺取り虫の要領で盛り替えながら前進させていきます。
着地
ようやくここで移動した建物を移動先の基礎の上に降ろします。
台敷を引き抜き、基礎と本体を接続し、設備配管などの復旧をします。小住宅での直線移動ならおおよそ20日で工事は完了、工事の完了届を忘れずに出しましょう。
上下、水平、回転移動となんでもできる曳家はすごい!
動かないはずの建物を動かす! それが曳家(ひきや)の技術です。 土地区画整理のため、文化財を保存するため、自然災害からの修復のため、また前後・左右に移動させるだけではなく、崖の上にあげたり、高台から降ろしたり縦横無尽に活躍する曳家の技術。 その技術は一般家屋から鉄筋コンクリート、重量約3 千㌧の工場までも自在に動かしてしまいます。 他にも液状化現象で傾いた家の修復、免震装置の設置、地震後の建物の基礎、折れ曲がった橋の修復等にも役立つ驚きの技術の数々26 事例を豊富な写真とイラストで解説します。
動かないはずの建物を動かすのが曳家【ひきや】の技術です。前後・左右に移動させるだけではなく、崖の上にあげたり、高台から降ろしたり縦横無尽に活躍する曳家の技術。その技術は一般家屋から鉄筋コンクリート、重量約3 千㌧の工場までも自在に動かしてしまいます。 驚きの技術の数々26 事例を豊富な写真とイラストで解説。