登録文化財の改修と届出

120809阪神間戦前の和風建築

 生まれ変わる歴史的建造物-都市再生の中で価値ある建造物を継承する手法

登録文化財に襲う修理

登録文化財にするときは、ほどほど見やすい状態であったものの、あれから10年。あちこちに修理が必要になってきます。

また実際に住んでいるような場合は、温熱環境や耐震性能においてどうしても劣ってしまう古い建物では、年々あふれる住まい情報や隣の新築をみるにつけ、より大きく感じるようになるのが、安全と快適。

登録文化財の建物で生まれていても一旦マンション暮らしなどしようものなら、こんな寒い実家に一泊だってごめん、という声が聞こえます。ましてその配偶者やこども達ならなおのこと、信じられない寒さです。

また地震情報のテロップが流れる度に、このうちは大丈夫?と不安がよぎります。大丈夫、200年保っているから・・・、は根拠ゼロの「NGワード」です。

そこで登録文化財の修理には通常の新築住宅と違って50-200年分の修理が襲ってきます。日常茶飯事なのが点検と小修理。次に年に一度ぐらいのあちこち重点修理、そして、数年に一度の中規模修理、それから10-30数年に一度の抜本大修理となります。

現状維持のための修理以外に必要になるのが改修工事。今回の耐震・防寒・設備修理については、「住み方修理」と言われる工事になります。住まい方や住まいに対する考え方、価値観が工事の有無を左右します。代替わりや相続税問題を機に資金に余裕があれば一日も早く住みやすさを入手したいのは当然ですね。

さて、具体的に登録文化財の修理の際にすべきことを考えてみます。・・・続く

220307登録文化財の改修事例
杉皮の屋根下地がでてきました。納戸をトイレに改修中の登録文化財の長屋門

登録文化財修理に必要な届出について

ようやくまとまりました。

登録有形文化財(建造物)の手引2(登録後の各種届出)(1.5MB)>>登録有形文化財(建造物)の手引

最近改修を行った例で文化庁へ届出をおこなったものに屋根の葺替えがあります。建設当時は六甲赤瓦、’95震災前はセメント瓦、令和になって断熱・耐震仕様のカラーガルバ葺きに現状変更。↓

210217登録文化財の修理工事

もうひとつは、結果的に「文化庁への届出」は不要と判断されたものの、早合点で着工してしまって後で冷や汗をかいた例です。

外観変更の内改修工事で、内部用途を変更するものでした。外観の変更がない改修工事は大丈夫と高をくくっていたところ、ちょっと待って!と文化財課の声。

外観に変更がないから現状変更の届出が不要という訳ではない。

外観が変わらずとも、躯体や構造に大きく影響が及ぶ場合は、届出が必要となることがありえる。

例えば、内部の間取が大きく変わる、柱や梁といった構造材の多くを新材に取替える場合がそれ。

今後、上記のような改修が見込まれる場合は、事前に必ずご相談ください。

文化財として登録文化財は活用あってこその文化財ですので、外観以外は改修自由にOKとの認識が甘かったのです。逆に言うと内部が全く別物になってしまったものは登録文化財になるのは難しいと勉強したはず。よって文化財性の神髄を見逃した改修になればやはり登録文化失格というわけで注意が必要です。

具体的には、

「間取りの変更」とは、壁を撤去して2間を1間にするとか、畳の間を土間にするといったことを想定している。

室の用途が変わることは、文化財としては特に問題ない。

室内で簡易な間仕切りを付加する程度であれば問題ない。

よってそのような改修の場合、事後の報告も必要なし。

ということです。非常に身に染みるご指摘で、指定文化財でないのでとか、たかが登録文化財、この程度の改修で・・・、との意識では不十分でした。自分を叱責してのご高言拝領でした。

 

文化財建造物の保存修理を考える: 木造建築の理念とあり方
2019/4/14 文化財建造物保存技術協会 (編集)

木造建築は適切な修理が継承されることで、今日まで保存されてきた。国内外の建造物保存修理の歴史や事例、理念、あり方について、技術者・行政担当者・研究者が会して検証したシンポジウムの記録集。