庫裏の耐震大改修

相談

和歌山県にある、築110年の大きな入母屋本瓦葺の庫裏です。

あちこち修理が必要な状況です。最近になって、かつて無住であった時期の雨漏りが原因か、梁や柱が腐ってしまった部分が多数見つかりこれはいかん、ということになりました。

大型の木造建築であること、また屋根瓦が非常に重いことで耐震性への不安もあります。今後も安全に、快適に維持していきたいのですが、どう取り組んだらよいでしょうか?

和歌山県議会堂 トラス屋根 解体修理 庫裏の解体 屋根下地をとったところ

答え

明治後期の庫裏で、堂宮建築と民家建築の両方の特徴を持っているようです。小屋裏には登り梁やトラス風の組み物も見ることができ、近代化した構法を交え、しかも限られた予算で大空間を作っています。

現実的な答えとして、屋根の軽量化を前提に、伝統的な建物の耐震診断に向いた「限界耐力計算」により安全な壁量増強をおすすめします。

「限界耐力計算」のためには、簡易な「一般診断」より精密な構造調査が必要で経費も掛かりますが、結果的に構造をよく読み取ることができ、改修工事の計画にも大変役立ちます。

耐力の強化が必要な場合には「限界耐力計算」に算入できる即ち、柔らかく地震に抗する耐力要素である「荒壁パネル」(乾式土塗壁)や「面格子」、「落し込み板壁」や「仕口ダンパー・耐震リング(写真↓)」などを組み合わせて補強計画をすることになります。

210314大和郡山川本楼の耐震補強(耐震リング)

他に、根本的な構造の欠点を補うべく、どんな部材を加えるかはその建物の構造特性をきちんと知ることが必要です。

事前調査の大事さがわかっていただけたかと思います。

寺院庫裏 建築模型 構造模型 寺院庫裏 建築模型 構造模型

その後

真壁で小屋裏も広く、非破壊でほとんどの構造調査ができました。床下、1階天井裏、小屋裏など損傷箇所をまじえて、部材の確認、継ぎ手仕口の調査もできました。

それらをもとに、詳細な構造伏図、軸組図を作成し、限界耐力計算で耐震診断をしまた。

結果やや危ない診断結果が出たため、劣化改修と屋根重量の軽減化(葺き土なしの一体型本瓦葺き)、小屋部分の葺き土の撤去、柱と構造壁の増設を行う方針が出ました。

実際の補強に際しては、構造模型をつくり何度も大工棟梁とも話し合いながら進めました。理想と現実のギャップや見た目でわからない建物全体のバランスについては棟梁から貴重なご意見もいただきました。

大径の松の豪快な梁組にトラス風の屋根支えは不安定でしたが、小屋の組み替えまではできず、小屋の平面剛性をブレースで補い、全体のバランスをとって力を分散させるための鋼製火打ちによる補強をおこないました。

意匠的には、面格子壁を要所に配し、かろうじて元の空間構成のよさをこわさないようにしました。

築110年を経た平成の大修理は三年に渡り行われ、近く終了の予定です。→ほぼ竣工↓

和歌山、庫裏の耐震改修 竣工へ