現況の耐震診断
現況平面図 1Fは1LDK,2Fは3室あります。
評点は0.09、必要耐力の9%しかないという結果です。
建物概要
この建物は神戸市垂水区の丘陵地のさらに石積みの上に建てられた木造住宅です。コンパクトながら見晴らしのいい広いバルコニーが魅力です。昭和56年築でこの頃の小住宅の多くはもう「土壁」を使わなくなり、外部は「木ずりモルタル塗り」で内部は軽微な「ボード」を使うようになっています。
ボードとは、
・木目調や予めクロスを貼った化粧合板(新建材とかプリント合板等とも言いました)・・・玄関や応接間、階段室に使う
・左官仕上げの下地となるラスボード(プチプチ小穴のあいた石膏ボード=白い石膏を紙で挟んだボード)・・・和室や押入れに使う
・クロスの下地に薄いラワンベニア・・・LDKや寝室などの洋室に使う
水平構面を作る屋根面はまだバラ板仕様、2階床にも荒板が使われています。
屋根瓦はまだ「土葺きの釉薬瓦」で震災後も葺替えていません。
長く空き家だったようであちこちに劣化が見られます。幸い目に見える雨漏りはまだないようですので、建替えか改修かで悩んでのご相談でした。
このようにきちんと劣化管理(メンテナンス)がされていないと、改修といっても修理に費用かかります。その上、耐震に有効な壁も少ないため、重い屋根を軽い屋根に葺き替えることで、地震時に必要な耐力を少しでも軽減したいと考えますので、そこでも大きな費用が掛かります。
外壁以外をほぼ「木軸」(棟上げの時のように)だけに戻して耐震リニューアルすると少なくとも新築コストの70%はかかるので、思案のしどころです。
補強計画
補強壁は半間のものを1Fは12カ所、2Fは1カ所です。ただし、劣化改修を100%した上で屋根を軽い物(金属板や石綿スレート)に葺き替えます。
評点は1.03、必要耐力の103%でOKという結果です。
改修費用
壁の補強費用として約155万円との結果です(達人診断、愛知減災協仕様の天井・床を残した補強方法を選択)。外壁や屋根・樋の外装で200万~、水回りの更新を加えると200万円~、サッシや内装ドア、全室の仕上げや収納も更新すれば500万~その他設備を合せると総計1200万~1500万はかかると思われます。工事面積が約25坪ですので、解体して新築すると2500万ぐらいなので、改修にトライするメリットはあるかもしれません。
小屋裏からみると外壁や内壁の下地が確認できます。ここでは板の間は黒い防水シートで、土壁がないこともはっきりわかります(ラス板にモルタル塗り)。また建物のコーナーに水平剛性を補強する「火打ち梁」が入っていますね。金物(ボルトや帯金物)もみえますが「筋交い」までは確認できませんでした。
世界で一番やさしい木造耐震診断>>
中古住宅の耐震補強に役立つ本
戦前のものから昭和56年以前の旧耐震の木造住宅の耐震診断と補強計画をする中で、『木造住宅工事仕様書』が非常に役に立ちます。その時代の住宅金融公庫融資のベースになる住宅の標準仕様が詳細に表わされているからです。ラスボードやPタイルとうのその時代特有の材料や納め方もわかります。また、浴室の作り方や基礎の配筋・構造、また木造の継ぎ手・仕口の仕様もわかります。
過去の木造住宅工事仕様書S26~(一般財団法人 住宅金融普及協会)>>
本件の場合前年度S55年の木造住宅工事共通仕様書>>が参考になる。↓
『木造住宅工事仕様書』は、その時代の住宅金融公庫融資のベースになる住宅仕様が詳細に表わされています。構造的にも昭和56年(1981)を区切りにいわゆる旧耐震・新耐震がわかれる他、2000年の配置バランスとN値計算による金物補強の厳格化は大きな転機ですので、その際の標準工事仕様の違いがよくわかります。
S56(1981)(木造住宅工事仕様書)筋違納り
S57(1982)木造住宅工事仕様書の筋違プレート
1980年代初頭までの柱頭柱脚金物は「かすがい」が使われていて、以降は「かど金物」が使われます(筋違用BP金物はS57の仕様書からスタート)。が、現在のような柱頭柱脚金物は2000年以前までは、使用が義務付けられていませんでした(2000年5月31日に施行、↑1994年木造住宅工事仕様書の参考図参照)。きっかけは1995年の阪神淡路大震災でのホゾ抜け事例の多発です。
H13(2001)(木造住宅工事仕様ホールダウン金物(N値計算もスタート)
よって、1981年までの建物同様、2000年までの建物も増改築に際しては、要注意です。