S28築中古住宅の耐震診断と補強(玉石基礎混じりの家)

現況診断と補強診断の比較

現況診断(非常に重い建物)補強診断(重い建物)

現況診断と補強計画 評点0.36→1.03

建築概要

神戸市は六甲山の南斜面に建つ注文住宅です。夢の「庭付き一戸建て」の初期の建て方で、外周部は無筋のコンクリートの布基礎がありますが、内部の基礎は全て煉瓦積みの布基礎で、一部に自然石を使った玉石基礎がありました。戦後8年目とあってまだ在来軸組構法のきちんとしたマニュアル(コンクリートの布基礎が標準)が津々裏々に届いていなかったころに建てられた今では珍しい戦後住宅です(伝統の玉石構法と西洋式の煉瓦基礎が混じっている)。

木造住宅の耐震診断 煉瓦基礎

壁は土壁で外壁は木ずり下地でモルタル塗り、屋根は瓦土を下地に釉薬瓦を葺いています(1995地震後も屋根の葺替え無し)。

必要耐力は1、2階の床面積に「非常に重い建物」と想定した建物重量を掛け合わせたものを使い、建物の重量バランスは偏心率でみています。(「達人診断」の一般診断(詳細法))

筋違はあったとしても巾80厚み25㎜程度の断面を持つ、当時標準であった釘打ち程度とみられますので耐力を見込みません。2階の床は荒床(2-30㎝厚の板張り)で床面の隅を補強する「火打ち梁」はかろうじて使用。屋根の下地は薄いバラ板(耳付き小巾板)を野地板に使っています。よって水平構面を担う「床の仕様」(屋根下地の使用)は、「荒床+火打ち」と設定します。

耐震診断調査 小屋裏 野地板 雲筋違

耐力壁は外周部分は上下の横架材(土台と梁、梁と梁)を埋める土壁があるとし、内部では天井ラインまでしか土壁がないものとして算定します。一部下屋(2階が載らない1階部分)の屋根が当たり隠れる2階外壁部分は仕上げが省略されている(木ずりモルタル塗りがない)と考えられ、その部分に関しては見かけ上の外壁の耐力(2.2kN/m)を見込めないことにも注意します(もしくは低減します)。

築70年と古く、’95の震災も経た建物です。管理がいいため、概ね生活に支障の出るほどのひどい老朽化はありませんが、長年の疲労が蓄積した劣化があることは否めませんので、保有耐力の70%を有効な耐力として計算します(劣化による低減)。

現況耐震診断平面図2F

現況耐震診断平面図1F

現況平面図

補強計画

補強耐震診断平面図2F

補強耐震診断平面図1F

補強計画平面図(黄緑のラインが補強部分)

計画に当たって可能性を広げるためにまず、明らかな劣化については修理や更新(やり直しや化粧直し)を想定し、劣化による低減を90%と仮定します。

古くなった屋根の葺替えを予め想定できるなら、なるべく軽い金属板葺きを選べば、この建物なら「非常に重い建物」→「重い建物」(内外壁とも土壁なので軽い建物にはならない)に条件がよくなり(必要耐力が減る)、補強部分が減ります。さらにできるならば、屋根下地を合板に張替えるとより屋根面の剛性がやや高まり耐震化(耐震診断の評点)には有効に働きます(野地板をはがすのが結構厄介でなかなか実現しません。小屋梁構面にブレースや大火打ちを使う方法も)。

この建物の場合、屋根の葺替えによる室内の耐震工事は1/2以下になりますが、代わりに同程度の費用が屋根の葺替えに掛かるので、「屋根の葺替え」をどうするかは今後の建物のライフサイクルコスト(今後何年住んで、その間に修理費などがいくらかかるか)を考えて決めていただくことをお薦めします。

室内の壁補強は、今回は工事範囲が最低限になるように、愛知減災協仕様土壁を残してかつ天井と床をそのままでできる工法(真壁 「上下あき」 アルミ材下地)を選択しました。

230730アルミアングル_耐震補強2

15*40のアルミアングルをコーナーから斜め45度で柱に木ビス(コーススレッド)@100mm 以下

170818アルミアングル_耐震補強

タッピングビスφ3×L30、木ビス(コーススレッド)φ3.8×L32等、@100mm 以下 

結果1階で11カ所、2階で1カ所の壁補強と金物補強(告示の仕様)の約80万との概算がでました(耐震以外のクロス張りなどの派生工事は別途です)。

補強壁の工事費

改修(リフォーム)費用

約30坪部分2階、基礎不全の木造住宅の耐震補強には少なくとも300万円が見込まれます(劣化改修と屋根葺替え含む)。この際にとキッチンや浴室の更新、和室を洋室に、断熱リフォームも是非にとご希望を加えると450-500万円ぐらいにはなると思われます。

170822耐震改修 新しい間仕切りで和室を洋室に

耐震改修の様子 新しい間仕切りで和室を洋室に

耐震に特化しての最小限の補強か、その他の快適化リフォームも行うか予算と向き合って具体策の検討に進みましょう。いずれにしても大金です。今時の仕様・グレードで30坪の家を新築すると2500-3000万円が見込まれますので、その点を重ねてじっくりシミュレーションをしながら「住まいに掛けるコスト」を考えましょう。

(本例は2019。2023では工事費は1.3倍を見込んでください)