兵庫県但馬、旧竹野町の民家と焼杉板。
雪深いこの辺りの民家では、土壁の外壁の上に焼杉板を横張りにする。薄板の合羽を削いだものを下から上に重ねながら張り上げていく。柱の上で横継ぎをし、その上に柱巾より少し狭い幅の竪桟を打ち付けることが独特の意匠となっていて美しい。破風板の眉引きの向こうにある焼杉板のモダンな納りは男前。
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相談 焼杉について
震災後に張り替えた外壁の焼杉が最近傷んできました。現在でも伝統的な焼杉板で補修できるでしょうか?
答え
昔は杉板を直火で表面を焦がしたものを外壁材として使っていました。杉板をそのまま使うとすぐに腐朽してしまいますが、その表面を焼いて炭化させることで対候性・防腐性が各段とアップするため外壁に使うにはちょうどよかったのです(元は無塗装、最近はムラのない表面に仕上げるために元々焼いていなかったり、焼いた上で塗装したものがあります↓下段参照)。杉は木そのものは軽く柔らかい、そして「挽きやすい」(のこぎりで切る、割って板状にするの両方の意味で)ものです。杉は日本に大量に植えられています。また直材(素直なまっすぐなとの意味)として比較的容易に手に入る材料でもあり、天井板をはじめ、薄く、広い、長い「材」をとりやすい木材です。
そんな扱いやすい杉板は、昔は8寸幅、厚さ5分(240×15mm)、長さは1.8m~4mが標準で、古式には「皆折釘(和釘)」で、今は丸釘やステンレス釘(ステンレスの皆折釘もあります)留めつけます。焼き焦がすので節アリも大丈夫、挽いただけの荒い表面(鉋掛けなし)でOKでした。今出回っているものは少々薄い(昔より薄く製材できるようになった)ので頼りないものがあります。長持ちにはある程度の厚さがあって欲しいし、見た目もひょろっとして貧弱です。ただ厚みがある分、経年変化で反るとたちが悪いともいえます。また材の善し悪し、使われる部位(日射や雨ざらしの度合い)で保ち(耐用年数)が違ってきます。
焼杉は、縦張りが基本で、塀や蔵、納屋、母屋のどちらかというと裏手に使われます。軒の出があれば、上部は土壁や漆喰壁のままで、雨の当たる下部の高さに応じて高腰や低腰に焼杉板を張って建物を守ります。母屋の正面などでは別途ヒノキやケヤキ、トガの良質の板材を鎧張りや一枚板=鏡板張りにして使います。焼杉は文字通り表面が炭化しているので、この炭がべべ(着物)に触れるところでは使いません。
焼杉は、ある意味で廉価に土壁そのものを風雨から守るためにする最も理にかなった仕上げ材(だった)といえます。
壁下地はの土壁の上に横方向に下地の桟を30~45cmピッチに取り付け、そこに焼杉を留めます。板同士は、板の端を削って少し重ねます。現在では相じゃくりといってお互いの重ね代(幅)を欠いて重ねます。釘は丸釘を使うことが多いようですが、蔵など少し気を張った場所に用いるときは「皆折釘」を使うとぐっとグレードがあがります。
さて焼杉板の外壁はどれくらいの耐用年数があるのでしょうか?もちろんどこに使うか、どれぐらい雨がかかるか、車の行き来で雨水の跳ね返りはないのか、人の行き来はどううか(昔は牛車や大八車の交通量)・・・と条件にもよりますが、このページに掲載されているような民家の場合ですと20~30年、場合によっては80年近くはそこにあるようです。軒を十分出せばいいのですが、出せないところにこそ使いたい材料ですので、日頃のメンテナンスは必要です。傷んだら差し替えるべきですし、中に水が入っているようでしたらもう役に立っていないものと考えてください。
ある街道筋の町家の焼杉 はがれ落ちの歴史(進行中2017→2018→2019)
上部の土壁が風雨で洗われ徐々に土がとれ、下地の竹小舞が白く見えてきました。こうなると内部への浸水も秒読みです。
ちなみに長谷寺参道の町家↓はすでに焼杉板が崩落して後、ブルーシートで養生したがそれも破れて、土壁にいたる崩落が進んでいて痛々しい光景でした。
焼杉の焼き方は、
昔は焚火の直火で「えいやっ」、「ぼあ~」と適当に焼いていたものを、現在では製材し表面も軽くカンナ掛けしたくらいのものを機械や手作業のバーナーを使って、焼き具合を見ながら焼きます。焼き加減は現在の趣向に合わせて浅い焼目から真っ黒までさまざまです。焼いた後の表面の炭に触れて汚れることも考えて、現在ではわざと炭部を削りおとしたり(ブラッシング)、焼きムラを均すためとさらに防腐・対候性をあげるために薬液や色液(キシラデコールやオスモ)で塗装するようです。
ときには不燃塗装も施します。
防火系の地域で外壁に焼杉を用いる場合、防火構造を義務付けられることがあります。H12年の建基法改正で、下地が一定上の厚さのモルタルや土壁であれば表面の木部は延焼に抗する役割が認められていて、「焼杉張り」の外壁もOKのようです。H30年の改正では、防火・準防火地域の門・塀(2m超え)における木材の利用拡大を狙って、改正前は不燃材義務付け→改正後一定の範囲で木材の利用がOKになっています。>>国交省「建築基準法の一部を改正する法律案」の概要 P5参照
焼杉材料の隙間
現在の流通品は、材径や木取りの関係か、板幅も15~21cmとやや狭く、その代わり相じゃくりを施し、仕上げは平滑で端正です。がその平滑さで内側が土壁の場合は通気性が阻害されるので二重丸とはいえないでしょう。
古建築の板壁をみると、板の端を削って少し重ねています。新しく張った当初はピリッと端正ですが、板は縮んでいきます。また反ってきます。風当たりや日射の具合で大きな面積の板張りの面が様々な表情を見せてくれるところがうれしいところ。板と板のすき間もまた織り込み済みなのです。そうした変化を楽しめる余裕を持ちましょう。
セメント板や鋼板、セラミック板などさまざまな材料で、この「焼杉風」のものが作られている現在、やはり心の底で焼杉板の外壁に対する郷愁が日本人のDNAに刻まれているのかもしれません。
「皆折れ釘」【かいおれくぎ】を使った杉板>>和釘のはなし
釘の頭は板を掛け載せるよう(鍵先が上をむくよう)に|__
焼杉板と後ろの下地(横胴縁、桟木)と土壁
この板と土壁の間の空気層が大事。適当に通気します。
焼杉の耐用年数
実際の建物を見ていると、雨風の当たりにくい軒下で乾燥した日陰なら100年以上、逆にその逆の条件では2-30年といったところでしょうか?もちろん取り付けに使う釘や板の仕上げ・厚さ・樹種にもよります。
大和八木某家の焼杉板 最近の張替えで皆折釘から真鍮釘になりました。残念です。
登録文化財 焼杉塀の修理>>http://www.kazabito.com/2038