伝統構法の耐震性
江戸後期から戦前に掛けて建てられた多くの木造の建物には、現在の耐震基準に照らすとその性能が劣ると判断されるものが多い。しかし、地震国・日本の匠・先人による経験的な耐震配慮を信じたくその検証もできたらいいのにと考えます。
そこで、現在の建築基準法に則った「新築の伝統構法」への課題は別の機会に触れるとして、既に存在する伝統構法の木造建造物の耐震性をどう判断するかを考えたいと思います。
まず、伝統構法による住宅の種類として、
古民家と呼ばれる里山部に多い茅葺き民家(農家住宅)
京町家を代表とする都市部に残る町家
その中間部に多い瓦葺きの独立民家
をイメージしていただきたいと思います。
伝統構法の例として他に神社仏閣があるものの、耐震性能は人命保護を目的としているのでこの際は「住宅」のみを指すことと考えることにしました。
伝統構法のイメージとしては、
独立した礎石の上に直接柱を建てる「玉石建て」であること。
主要な壁が「土塗」であること。
柱同士は桁・梁と貫で接合されていること。
木組に金物をほとんど使わない「仕口・継ぎ手」を持つこと。
「茅葺き」や「瓦葺き」の勾配屋根であること。
があげられます。
注意:昭和初期などでも、近代化後はコンクリートや煉瓦積みの布基礎であったり、壁もツーバイフォー構法など乾式壁、土台を回し筋交いをいれた建物も多い。
箱木の千年家 箱木家住宅主屋(室町後期) 外観と内観(土壁と貫)
現行法の耐震基準にはずれる要素としては、
布基礎と呼ばれる強固な基礎を持たないこと。
基礎との緊結がなく、ときに柱脚部が連結されていないこと(足固めもなし)。
「仕口・継ぎ手」に金物による補強がなされていないこと。
壁の強さを期待する現行法に対して、木軸の「粘り(たわみ)」や「めり込み」により地震に対応する構法であること。
床や屋根下地といった水平構面に板張り以上の強度が期待できないこと。(火打ちや水平筋交いもなし)
建造技術や木質にむらがあり、同じスケール、同じ診断で強度を測りにくいこと。
があげられます。
伝統構法の耐震診断の最近の傾向としては、
土壁や貫、差し鴨居、腰壁・垂れ壁等の強度が実験により数値化されたこと。
樹種別の強度も明らかなこと。
Eディフェンスによる建造物の破壊実験で新たなデータが現れていること。
リーズナブルな費用(時間・労力)で検証できるように、簡易な計算でかつ、安全率を持つ耐震診断法が作られる課程にあること。(平屋モデルの限界耐力計算など)
耐震基準と新築基準が相互に整合しつつあること。(不明点が多い分耐震診断は新築の構造基準に比べて厳しい)
耐震診断の問題点
「一般診断」や「保有耐力法」などの基準化された診断判定での結果でなければ、耐震補助が受けられないこと。(限界耐力計算法でOKが出る改修でも助成金がおりない場合がある。→最近は、クライテリアや評点置き換えて基準を設けて補助金獲得も可能になりつつある。
都道府県により上記の判断基準が違うこと。(平屋モデルによる限界耐力法は現在、大阪市と京都市で採用されているが、被災県兵庫県では不可などチェック機関の能力に左右される)
耐震診断をチェックする行政や検査機関の不足により、診断結果が生かされないこと。
診断のための現況判断のためのノウハウ=「伝統構法に対する知識」が十分な人材が不足すること。ピアチェック(専門家による二重チェック)も難しい。
適正な費用での診断が必要。限界耐力計算法では、調査と診断に一般診断の10倍以上の労力がかかる。
地盤情報を広く開示してもらうことと活用しやすいシステムづくり。
一般的な伝統構法の姿-薄い土壁と少々の筋交いでまとめている
(朝来市生野の戦前住宅)
耐震改修の問題点
重文級の建物ではないので、適正な費用で、機能を保てる改修方法が必要。
過剰になりがちなので、建物の使用方法で対応することも考える。
また、過剰な金物などで補強過多になることで、逆に耐震性能を損なわないこと。
十分構法を理解した工事技術者が不足すること。理論実践のための場をつくり、耐震診断の考えを活かせる工事レベルを確保する。
伝統構法の継承に「耐震ノウハウ」をフィードバックし「耐震伝統構法」を確率すること。
その他の提案・・・所有者さんへ
きちんとした耐震改修で安全に住まえることを知って下さい。
常日頃の劣化対応が一番、こまめにメンテナンスをしてください。
所かまわず筋交いや構造用合板を入れることで、かえって耐震性能を損っているケースも多いので、確かな専門家に頼むことまた継続的なケアを受けること(ホームドクター)。
公正な目で相談できる行政窓口を探して下さい。(ex.耐震や文化財関係の部署)・・・とても助かる工事費補助などの公的制度があるかもしれません。