伝統建築の虫害と対策

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日本建築、伝統建築に多く用いられる木材・竹材を加害する害虫は、主にシロアリ類、シバンムシ類、ヒラタキクイムシ類、カミキリムシ類、ハチ類、タマムシ類、ナガシンクイムシ類、アリ類などがある。特にシロアリ類、シパンムシ類、ヒラタキクイムシ類、ナガシンクイムシ類は、内部を穿孔食害して材としての強度を低下させることも多く、被害の早期発見・早期対処は大変重要。

ヤマトシロアリやイエシロアリは集団で生息しており、集団内に女王・王アリ、兵アリ、働きアリなどの階級が存在し仕事を分担して巣を維持していて、生活の基盤は主に地下。巣から蟻道(トンネル状の道)を延ばして周囲の木造建造物や樹木などに移動しながら木材を食している。ある時期になると翅【はね】をもった個体が多数発生する。この有翅虫【ゆうしちゅう】は将来女王と王になり、新たな場所で巣を築くことになる。

ヤマトシロアリは建物下部、イエシロアリは建物全体が攻撃ターゲット。ヤマトシロアリは北海道北部を除く日本全土で、イエシロアリは本州神奈川県以西の海岸線に沿った地域と千葉県の一部、南西諸島、小笠原諸島にそれぞれ分布する。ダイコクシロアリは乾燥に強く、水がなくても木材内で生息が可能という。

シバンムシ類による被害↑は、従米からケブカシバンムシによるものが有名である。古材を好み、針葉樹や広葉樹なと広範囲で辺材や心材を問わず幼虫が食害する。成虫は年に1回、6-8月頃出現するので観察・発見の機会である。古くから知られているシバンムシ類ではあるが、詳しい生態は不明、大概はそのまま放置することが多い。

以前は木造建造物のシバンムシ被害といえば前述のケブカシバンムシであったが、近年の傾向は、ケブカシバンムシはまったく発見されず、そのかわりに、オオナガシバンムシ、クロトサカシバンムシ、チビキノコシバンムシ、エゾマツシバンムシ、アカチャホソシバンムシとなど、様々なシバンムシが建物内で捕獲され、一部の種で被害が確認されている。

燻蒸による殺虫処理が効果的であるが、深部の虫を駆逐できるか、燻蒸のための密閉ができるかがネック。

ヒラタキクイムシはラワン材の害虫として有名で、通常は1年1世代であるが、栄養と温度、湿度の条件により卵から成虫になるまで3ヶ月~2年までの巾がある。近年、このヒラタキクイムシにかわり、アフリカヒラタキクイムシが分布を拡大している。アフリカヒラタキクイムシは熱帯から亜熱帯にかけて広く分布する甲虫で、日本では昭和56年(1981)、大阪府高槻市と茨木市の民家で発生事例が確認されてから、近年では西日本から東北地方まで被害の発生がある。(2022年10月号月刊文化財参照>>

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古建築を受け継ぐーメンテナンスからみる日本建築史>>

2024/7/30海野 聡 (著)

世界最古の木造建築・法隆寺をはじめ、日本に多くの歴史的建造物が現存する背後には、維持管理のための不断の営みがあった。式年造替から遷都にともなう移築、被災からの復興、応急処置に至るまで、日本古来のメンテナンスをめぐる体制・技術・理念を通覧。多彩な継承の歴史を繙き、未来へと紡ぐ、画期的な建築思想史。

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