阪神淡路大震災に見る木造住宅の被害と対策

1995.1.17阪神淡路大震災の概要

  • 震央 淡路島北端
  • 深さ 14.3km
  • マグニチュード7.2

戦前の家 土壁の竹小舞(梁まで達する内部の土壁がない)

都市直下型で、関東地震(M=7.9)、東海地震(M=8.0想定)と比べれば一桁小さいが、死者が6000人を越え、土木・建築構造物では、高速道路や新幹線の高架橋、鉄筋コンクリート造の高層ビルをはじめとして、きわめて広範かつ重大な被宥を被った地震。とりわけ木造住宅が多く倒壊し、それによって多数の人が圧死した。全壊が10万棟、半壊約11万棟でほとんどが木造である。

大きな振動の継続時聞は10秒を少し越える程度の短いものであるが(能登地震は30秒)、振動が始まってからほんの数秒で、水平動・上下動ともほとんど同時に最大値に達しているのが特徴である。

被害地域と地盤

この地震をひきおこした断層は淡路島の野島断層と阪神聞の六甲断層系であリ、いずれも活断層として知られていたものである。そのうち野島断層ではずれが地表に現れ、阪神聞の震災の帯が六甲断層から南へ数百メートルずれたといわれている。

被災地の地盤は、北から六甲山地、 丘陵地・洪積台地(扇状地)、海岸に近い沖積低地が東西方向に帯状に並んでいる。さらにその南側に埋立地がある。その内震度7判定の震災の帯は神戸市の須磨から芦屋市を経て西宮市で北に曲がり宝塚市にいたる巾1km長さ30km。

その中で被害の大きい部分は洪積台地(扇状地)から沖積低地にかかっているが、扇状地では玉石の混じった土質であり、「むしろ良好」と言える地盤である。沖積層も粘土質だけでなく砂質の部分もあり、「とくに軟弱な地盤とは言えない」。このように、被害の大きいところが「きわめて悪い地盤」のところだけだとは、必ずしもいえない。

木造の被害

被害が大きかったのは、いわゆる在来木造である。倒壊するような大きな被害をうけたのは、構法的に古いものと、新しくても耐力壁が少ないなど耐震的に不備なものであった。いっぽう在来構法(軸紺構法)でも、金融公庫の融資を受けた建物の被害はきわめて少なかった。筆者の耐震診断経験上も少なくとも公庫融資を受けて検査済み証を持つ建物は、「住宅金融公庫 木造住宅工事仕様書」に大きくはずれていない仕様で、比較的適切な設計と施工が行われている(公庫融資ながら、中にはひどいものがあるので注意)と思われる。ちなみに2×4【ツーバイフォ一】については、液状化地域を除き、全壊・半壊はほぼなかったといわれている。プレファブ住宅も建物本体の振動による半壊以上の被害は確認されていない。

神戸の木造住宅 小屋裏の火打ち梁(釘打ち)、外壁の木ずり

被害の程度の呼称について(外観判定)

  • 【倒壊】いずれかの階崩壊しているもの、または隣に寄り掛かっており、隣の建物がなければ倒れるであろう建物
  • 【大破】建物の修復が著しく困難で、ほとんどの場合、建て直すであろう程度の被害を受けたもの。おおむね建物の残留傾斜が1/20rad以上(鴨居高さで9㎝)
  • 【中破】建物の修復が可能で、ほとんどの場合、修復して使用するであろう程度の被害を受けたもの。おおむね建物の残留傾斜が1/60-1/20rad(鴨居高さで3-9㎝)
  • 【軽微】軽微ではあるが、被害を受けているもの。外壁・基礎の小さなひび割れを合め、無被害ではないもの。おおむね建物の残留傾斜が1/60rad以上(鴨居高さで3㎝~)
  • 【無被害】外見上被害が観察されないもの

建物各部の被害

基礎の被害

木造の基礎には「玉石基礎」「布基礎」「ベタ基礎」があり、そのうち布基礎には「レンガ造基礎」「無筋コンクリー卜造基礎」「鉄筋コンクリー卜造基礎」がある。住宅金融公庫の「工事共通仕様書」では、昭和26年に無筋コンクリー卜造布基礎に関する仕様が、また昭和57年に鉄筋コンクリート造布基礎に関する仕様が示された。これらに併せて、昭和48年には石積みおよびコンクリートブロック積みの布基礎の仕様を廃止し、また昭和60年には無筋コンクリー卜布基礎の仕様を廃止した経緯があるので、地震の木造住宅の築年がわかれば当時の建設業界の常識がわかり、鉄筋の有無などを類推できる。

神戸六甲 これは軽量鉄骨系のプレファブ住宅の基礎(石積み、煉瓦基礎、コンクリートブロック基礎の三悪例)

よって阪神淡路大震災の被災地の阪神間では、概して昭和40年代以前の建物ではレンガ造布基礎が多く、昭和40-50年代の建物では無筋コンクリー卜の布基礎がほとんど。コンクリートブロック積みの布基礎も一部の建売住宅や簡易な建物を中心に使用されていたらしく実際の耐震診断の現場でもまれに見かける。昭和50年代中頃から工業化住宅やツーバイフォー構法、および高級住宅を中心に、鉄筋コンクリート造布基礎が普及していったようである。埋立地等の軟弱地盤地域を除けば、ベタ基礎の建物はほとんどないといえる。

レンガ造布基礎やコンクリートブロック布基礎は極めてもろく、建物の倒壊率は非常に高い。無筋コンクリートの布基礎の被害事例としては、基礎の破断や倒れが大部分を占めており、多くの建物で換気口付近での亀裂が見られる。特に隅部での基礎の破断は建物の倒壊に直結するので注意が必要である。よくあるケースではあるが、浴室回りにコンクリー卜ブロックや無筋コンクリー卜の1m程度の高基礎を設けたものに大きな被害を生じたものも多く見られたので弱点といえる。

軸組みの被害・・・木造部分

軸組全体の被害としては1階の水平耐力が不足して(強度と壁量不足)、2階床部分で折れるように変形したものが多い。1階の壁量が不足して大きな層間変形を生じての「通し柱の折損」は非常に痛い。老朽化した住宅ではなおのこと簡単に折れる。

接合部の被害としては、当然ながら柱と土台や桁など横架材との留め付けに金物が取り付けられていないものがほとんどで、柱端部の接合を短ほぞとしている場合がほとんどなので、浮き上がったら即はずれる部分で隅部では端的である。建物縦長の総2階であれば一層被害が大きいのは自明である。

神戸の木造住宅 天井裏から見る梁の腐朽(屋根屋サッシ周りからの雨漏りや2階の水回りの床下に多い)

変形による筋違の踏み外しは上記の接合部の金物補強がない場合に顕著で、筋違の耐力を超えた地震力は短時間で建物倒壊を引き起こす。また筋違の配置や傾ける方向を間違わないようにしないと補強金物にだけ頼るような設計ミスが致命的になる(設計ミスで建物が倒壊する恐れがある)。

壁の被害・・・ラスモル

’95震災時の多くの木造住宅の外壁はラスモルタル塗りが大半で少しサイディング張りであった。被害判定の現場ではラスモルタル塗リなどの湿式工法の外壁はひび割れが現れやすいが、サイディングリ張りなどの乾式工法は達物に変形が生じても損傷が目立たないので被害実態の見極めに注意が必要であったといわれている。

当然ながらラスモル壁の被害は、ひび割れ程度からスッカリ剥がれ落ちたケースまで建物に生じた層間変形角に比例して大きくなる。ひとつは、ラスの品質が劣っていた可能性、もうひとつはラスを下地に留め付ける又釘、タッカー釘の留付け間隔が不十分(住宅金融公庫共通仕様書でメタルラスをタッカー釘で留め付ける場合には7㎝間隔とされるが、ほとんどの場合15-20㎝の間隔)であった。

神戸六甲ラスモルの家
蔦など植物は建物を傷めている例、根などがモルタルに進入し亀裂を作りそこから雨水が浸入する

モルタルの材質と塗り厚の問題として、耐震的に見れば 塗り厚が薄く、軽いものが望ましい。厚さが大きいとひび割れが大きな単位で入り、一挙に剥落する司能性が高いからである。塗り厚も大きい方が良いと誤解している場合があるようである。耐火という意味では一定の塗り厚が必要で、モルタルが落ちて木部が露出することで延焼を招いた例もある。ラスモルタル塗りの外壁では壁体内結露が腐朽・蟻害を招いていることも問題で、現在は通気工法で乾式の防火材料を外壁に使う例が増えていることはご存知の通りである。

モルタル塗りは一定の耐震強度があるが、サイディングは十分ではないので、現在では構造用合板が下地に使われる。

内壁はクロス貼リ仕上げなどが多いが、それらはほとんどが石膏ボード(やラスボード)や薄いベニアを下地とした工法で耐力が劣るる。’95当時は石膏ボードも間仕切りのためで上下の横架材(梁や土台)に留め着ける耐震仕様となっていないため、耐震を補完する程度の役割であったと思われる。昭和40-50年代築の内装に多い新建材(木目調の化粧合板)も薄い物は耐震性を期待できない。

屋根の被害・・・土葺き瓦

被災地域の住宅の屋根は大部分が瓦であった。しかも土葺きがほとんで建物の耐震性に関わる重量が非常に大きいものだったので被害を拡大させたといえる(重さに似合った耐震壁がなかった)。いっぽう特に葺き土の劣化と釘留めがないことで一挙に瓦が落下した被害も多い。屋根の頂部である棟の横倒しも瓦と葺き土の重量の問題である。

小屋組の被害

小屋組の倒壊を引き起こす要因は雲筋違の欠如や不足で、小屋組のずれにより垂木がはずれての屋根の倒壊も目立った(垂木留めの金物設置が必要)。

神戸の木造住宅の小屋組(ボルト締め火打ち梁はあるが雲筋違がない)

その他

  • 伝統的住宅の被害
  • やや古い住宅の被害
  • 新しい住宅の被害
  • 民家型住宅の被害・淡路島の被害
  • 狭小間口・ーミニ開発住宅の被害
  • 地盤と木造住宅の被害
  • 蟻害・禽朽と木造住宅の被害
  • 集合住宅の被害
  • 木造3階建て住宅の被害
  • 増改築建物の被害
  • ツーバイフォー住宅の被害
  • 混構造住宅の被害
  • プレファブ住宅の被害

阪神大震災に見る木造住宅と地震  鹿島出版会 1997/4/1 坂本功著

阪神・淡路大震災では犠牲者の多くが木造住宅の下敷きになって亡くなった。このような木造住宅の被害がどうして起こったのか、どのようにすれば起こらないようにできるのか。被害の実態を紹介しつつ、その原因について考察する。by amazaon

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