時刻歴応答計算とは、地震動によって建物がどのように動くかを計算する方法。地震動は、地震の規模や震源地、地盤の状態などによって、その波形や大きさが異なります。時刻歴応答計算では、実際に観測された地震動の波形や、地震動の強さを表す応答スペクトルなどを用いることで、建物が地震動によって受ける力を計算します。
時刻歴応答計算は、伝統工法で作られた「たわむ&揺れる」構造を持つ木造住宅の耐震診断や補強設計において、構造の安全性を数値化する手法のひとつです。地震動によって「建物がどの程度の損傷を受け傾くか」を正確に予測することで、耐震診断の結果に基づいた適切な補強設計を行うことができます。
時刻歴応答計算では、まず建物の構造モデルを作成します。構造モデルとは、建物の形状や材料、接合部などの情報を数値的に表現したもので、建物の振動特性を計算するために必要です。建物の構造モデルは、建築構造計算ソフトウェアを用いて作成します。簡単なソフトではいわゆる串刺しモデル(重さ、高さ、保有耐力、階数等)に対して制震ダンパーなどを設置することでどれぐらい補強になるかを計算できるわけです。
次に、地震動を入力します。地震動は、観測された代表的な地震動の波形(数種類)や、応答スペクトルを用いて入力します。応答スペクトルとは、地震動の強さを表すグラフで、地震動の周期や振幅などから求められます。
最後に、構造モデルと地震動を用いて、建物が地震動によって受ける力を計算します。計算結果は、建物の変位(層間変位=階毎にどれぐらい傾くか)、応答加速度、応力などです。これらの計算結果から、建物の耐震性能(層間変形がex.1/30~1/15に耐える耐力)を評価することができます。
時刻歴応答計算は、複雑な計算を必要とする手法であるため、専門的な知識や技術、そして高額なソフトが必要ですので、現在は構造専門家に有償で依頼するほか、ダンパーメーカー等が無償(営業の一環)で計算してくれます。
補強部材
- 粘弾性ダンパー
- 制振ゴム
- 制振ブレース
時刻歴応答計算のメリット
- 地震動によって建物がどのように動くか(傾くか)を正確に予測できる
- 耐震診断の結果に基づいた、建物の揺れ方に対応した補強設計を行うことができる
時刻歴応答計算のデメリット
- 複雑な計算を必要とする・・・高額なソフトが必要
- 構造モデルや地震動の入力方法によって計算結果が異なる(精密な入力が必要)
- 耐力要素のみならずそれらの効力を発揮するための全体の補強について知識が欠かせない=安易に使うと崩壊する危険がある
- 十分な現地調査が必要・・・モデルだけの計算通りでは現場はおさまらない
- 合板など1/60以下で倒壊する剛性の大きい耐震要素との併用すると想定よりはやく臨界点まで傾き倒壊する
- 制震要素以外の耐震要件を確実に満たすことが大変
時刻歴応答解析による免震建築物の設計基準・同マニュアル及び設計例 大型本 – 2018/5/31
日本免震構造協会 (著)
設計実務に使える 木造住宅の許容応力度計算 単行本(ソフトカバー) – 2023/3/17
大橋 好光 (著), 柳澤 泰男 (著)
2025年、木造住宅に関する建築の法規制が大きく変わります。特に影響が大きいのは、4号特例の縮小です。建築確認の際、2階建て木造住宅では構造審査が実施されます。住宅設計者は、構造計算に関する知識が必要になります。
構造設計のバイブル「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版)」(通称グレー本)をベースに、計算プロセスや専門用語を、分かりやすく解説。実際の構造計算書を基に、知っておきたいチェックポイントを示します。構造計算をはじめたい住宅設計者をサポートする入門書です。
耐震木造技術の近現代史: 伝統木造家屋の合理性 単行本 – 2018/2/24
西澤 英和 (著)
伝統木造家屋は激震に耐える!
先人は苛酷な震災に遭遇する度に、修理を通して耐震技術を蓄積してきた。
果たして、近現代の日本は伝統木造の英知を活かせているだろうか?
繰り返される在来木造の大被害、その要因を木造耐震化の歴史を振り返って明らかにし、地震国日本が培ってきた伝統木造技術の復権を論じる渾身の一冊。