登録範囲について
政変、戦争、災害など近代建築は改変機会が多く、さらに今後の保存のために大改修を予定している場合に、どの範囲を登録するかの関所に出会います。通常、改修後の姿を見すえてそのときに価値ある範囲を登録するように指導があります。当然です。
2023年のケースでは、四半期毎に建築費上昇の折、改修計画(コスト計画)が難航、価値のあると考えられる全棟を調査し、登録所見ができたところで、数棟の解体が決まりました。登録候補である主屋の価値付けのためにも大事な棟であったのですが、抗うことのできない事情により解体予定棟の所見を残したまま「登録範囲外宣言」の一筆を入れることになってしましました。
建築士として所有者の想いを紡ぐ役割もあります。日々経済情勢や価値観が移ろう時代に、ある日の決断が求められます。経済的な支援につながる補助金、支え手、活用による経済問題の解決、効果的かつ経済的な改修方法、安全な建築安全化対策・・・求められるスキルが多様化してきています。日々勉強。
所見の二大+四大要素
所見の書き方として、一箇所複数棟の場合でも登録候補ごとにA4用紙1-2枚にまとめます。主屋も蔵も物置も同等の扱いになるで、また棟毎に登録の可否も判断されるからでしょう。1.建物と所在する地域の概要、2.建築主や敷地整備などの概要など棟ごとに共通する概要は一棟目のみに添付でOKです。
棟毎には、1.建造物の概要、2.建設年代・改修年代、3.特徴、4.評価が所見の四大重要ポイントです。2021
登録名称
登録文化財は登録後の内容変更、例えば名称や登録後の調査でわかった建設年代に全く応じてくれません。今はA邸なのに、前の所有者の旧B邸とか建設時の旧C邸にするように指導されるケースがあるのは建物をあらわす最適な名称をということ。登録後に建物名称がかわることはこの世の中いっぱいあり得るのですが、それは「文化財村」では通用しません。
過去に筆者の担当したときは、登録用に新たな名称を考えOKがでました。「旧名称(現在の名称)」「現在の名称(旧名称)」とする()書きする案も過去にあります。歓迎はされませんが2023年登録では可能でした。
登録後の登録簿上の名称変更はできませんが、登録文化財の売買もあり所有者も変り継承されていきますので、呼称は自由です。
改修予定なら
活用のための改修が予定されている場合は、よりオリジナルに近い実態をきちんと示す(改修前の文化庁の実査を受けておく)必要があります。改修後では、文化財としての本来の姿が見えず、たとえ外観が維持されていても登録文化財と判断できなくなる場合があります。もちろん文化庁審議の俎上に上がるのは改修後の姿。・・・文化庁調査官の実査がなくなります。地元で判断に時代に(2024.10.21文化庁)。少しフレキシブルになるかも知れません。
今までも何件か、外観は保たれているものの、内部がダイナミックに改造され、活用されている場合に、登録できなかった例がありましたので気をつけましょう。
逆に言うと、登録文化財になって以降は、内部改修に届出の必要がないので、やり放題、というのが実情です。
どうとらえるかは?
よく都道府県文化財課、もしくは直接文化庁登録文化財の係に確認しましょう。
申請に必要な所有者など証明について
門や塀などの工作物があり、それに面積が発生しない場合、登記情報にあがらない、すなわち「所有者確認」ができない事態になります。
そこで、何で所有者確認かというと、土地の登記事項証明書(登記簿など)の出番になります。
「土地と建物で所有者が違う」場合、その門や塀が建造物の所有者の所有であっても土地の所有者の同意書が必要になるということだそうです。石垣や水路など建物として登記されていないものの登録には同様に土地の所有者確認と同意書が必要になります。もしかしたら地権者以外の水利権者の同意も必要なのかと考えてしまします。
2017年までは「門・塀の所有者確認」はありませんでした。そもそも「土地の所有者」を問われなかったからです(土地の所有者は同意しているとして手続きが進みました)。現在は門塀などの建物として登記されない工作物の登録同意者は土地の登記事項証明書により特定します。 固定資産課税台帳登録事項証明書や固定資産税の納税通知書に同封されている課税明細書はその年初における納税者情報なので、=同意者情報には使えないのが一般的な行政解釈です。
なお建造物を「最初に登記した際の地番」が登記後に変更されたり枝番がついた場合(合併や分筆等)は、その地番を確認できる書類等を提出してください(建物の登記簿に「最新の地番」が自動的には反映されないため)。所有権を示す資料のない建物は登録できないそうです。
よくあることですが、登記事項と実際の建築面積が違うことは多々ありますので大丈夫です。建物棟数の不一致も概ね大丈夫です(登記情報は実際より小さいことが多い。井戸の掛け小屋などはそもそも算入されていないことも多い。建基法上の建築面積と登記上の面積と、文化財の建築面積はそもそも計算方法が一致しない)。
相続登記義務化、改正法成立・・・相続人に土地の取得を知った日から3年
現在の所有者がわからない「所有者不明土地」の解消をめざす改正不動産登記法と改正民法、新法の「相続土地国庫帰属法」が、2021.4.2成立。相続登記を義務化し、正当な理由なく怠れば行政罰の過料を科されることに。
所有者不明土地は、国土の約2割。所有者と連絡が取れないため、公共事業や民間取引の障害となっている。
改正不動産登記法は、相続人に土地の取得を知った日から3年以内の登記申請を義務付け、違反には10万円以下の過料。また、すべての土地所有者に対し、住所変更などがあれば2年以内の変更登記申請を求め、怠れば5万円以下の過料。
お気を付けください。
登録「種類」(建物ジャンル)に注意
実際に困ったケースです。元商家で現在は住宅である町家の登録。
主として「店舗」で従として「住宅」であったと所見で建設当初の事情説明をしたのですが、「住宅」で登録になってしましました。事前に第三次産業への登録、これは店舗としての登録をお願いしますと申し上げてあっても、文化庁の判断だったのか、残念ながら「住宅」で登録原簿にのることに。
所有者の想い、地域での位置づけももう少し斟酌し、意が叶わないときに行政は、申請者側に充分な説明をしていただきたいものです。
この申請の背景には、建物概要の所見に「所有者の想い」を書かないよう指示があり(建築に特化した簡明な所見が大事)、その多くを削除してしまった私の責任もありました。登録申請を順調に進めたいとの思いからイエスマンになっていたのです。
どのように使われていたのか記憶や伝聞をたどることは建物を検証する上でとても大事なことです。が、ごく文化財建造物としての説明に的を絞るように指導を受け、甘受いたしました。申請処理上の効率を考えてのことでした。
この辺に国民の大切な財産として登録される主旨に対して、あまりにも文化財建造物「建築主義」を感じたところです。もちろん効率を考えないと登録業務の負担もたいへんなことでしょう。
こうしたことを教訓に、私たちヘリテージマネージャーの説明能力、プレゼン能力もとわれているように感じます。今後の課題です。
皆様も登録だけをゴールに申請手続きを進めると、こんな「落とし穴」があることを心の隅にとどめておいて下さい。
スケジュール・・・すぐに登録できません
候補物件の「同意書」と添付書類の受理から、登録文化財への「登録」決 定(「官報告示」の前、原簿への記載日です)まで、直近の例で8ヶ月ほど掛かると思われるので注意が必要です。ときには緊急物件などわけありのも のが優先されるようですが。また文化庁での審議は年間スケジュール(文化庁審議会は年2~3回)で動くので、前もってその年度中の申請締め切り日などを確認 してください。一日違いで数ヶ月単位でスケジュールがずれてしまいます。
基本的には年間ベースでその都道府県に実査の入るスケジュールが決まっているので、年に一度の七夕スケジュールを確認して進めましょう。(奈良県では2月、○○県では7月とかです)・・・文化庁調査官の実査がなくなります。地元で判断に時代に(2024.10.21文化庁)。少しフレキシブルになるかも知れません。
「申請書類」に対する「指針」が整いつつあります。すでに 10,000棟を超え(2014年)の登録数をのばす中、ますます申請も増加の一途、業務の合理化のためのちょっとした書類作成への協力が呼びかけ られています。当初は手探り然として業務に当たってきた方々の試行錯誤と熱意のたまもの、皆様もよりスムーズな業務へ向け、知恵を絞って配慮を行いましょう。
とにかく、「日本国」による登録制度です。比較的、登録後の縛り(条件)の少ない制度のようです。実利よりも受け継いだ所有者としての誇りを持って申請しましょう。
登録文化財手続き 手戻りの例
- 事実が違っている。・・・名前、登記内容、時代特定
- 所有者の未相続・未登記(必ず所有者=同意者)
- 添付写真に所見にある建物の特徴がちゃんとあらわれていない。→撮り直し
- 報道資料に値する写真がない。→撮り直し
- 登録物件の棟数の数え方、面積算定が違う。→所見作り直し。・・・2019棟数を減らす傾向顕著です。
- 名称問題・・・建造物文化財名称の定例は「○○家住宅」もしくは「旧○○家住宅」が基本で現在の所有者が名付けた名称で通らないこともあるので、交渉が必要になります。
- 同じ蔵でも、土蔵、倉、蔵・・・と呼称はいろいろ。現在の担当者は「土蔵」に統一を願っているらしく、名称変更をしないといけない場合があります。(過去事例をみるとばらばらですが、その年度の担当者によって、またはマニュアルが年次行進される中でこうした制約が増えてきています。送り仮名の表現なども同様です。例:「渡り廊下」とするか「渡廊下」とするかなど)主屋も今までは「しゅおく」が、「おもや」になったそうです。元々しゅおくには違和感ありましたが、地域での呼称もないがしろにしてほしくないと思います。日本は広いですから。
- 望見できる範囲の特定・・・以前は前面道路など誰でも望見できるが基本でしたが、その後、敷地内の空地から見えたら望見の範囲となり、現在は結果立面図に反映される部分はすべて望見範囲となっているようです。よって町家など側面に隣家が密着して建っていてもその隠れた側面も「望見範囲」となります。よく市町村や都道府県の文化財担当官課に確認しましょう。
- 別棟となるかどうかは担当官次第で「かなりあいまい」です。細かく分けると物理的に接したり重なっていても、自立可能であれば、もしくは時代が違えば別棟とみなす、と2021年の担当者曰く。それもしかり。登録直前まで悩むもしくは協議が続くケースもありますが、最後は文化庁の意向で年ごとにバラバラです。2021
場合によっては、鑑の書類(同意書)からすべての再提出となることがあります。
所有者自ら、国に申請も可!?
あくまで市町村が進達し、所有者が同意する「かたち」です。が実際は進達書につける書類は所有者側が用意する場合が多く、所有者が専門家に依頼します。もちろん所有者自ら手続きの書類を作成することはOKです。必要書類についても教育委員会文化財課などに確認してみてください。
登録用の「登録文化財手続きマニュアル」が少しずつ整いつつあり、細かな指示も年々出ているようです。書類作成前に必ず、事前打ち合わせをしましょう。くれぐれも手戻りのなきように!
・・・最近は登録文化財もメジャー化してきて登録候補も増えてきており、行政的に審査が追いつかないのか、結構ハードルが高いようです。2010年からは、登録に対する厳しい要件も出ています。
過去の公的な「調査報告書」に記載された建物
文化庁の補助で行った都道府県ごとの「近代化遺産調査報告書」や「近代和風建築調査報告書」に記載された建物は、すでに登録文化財価値付けがすでにできているということです。
よってかなり簡便な申請で登録ができる見込みです。まず報告書に記載所見がそのまま使える見込みで、多少の修正、加筆により所見となります。図面もあるので、寸法記入をすれば使えます。
留意事項
- 位置図については、統一的に「地理院地図」を利用し、緯度・経度等の位置情報を確認することにします。
- 登録候補とする建造物は、文化庁が実査したもの。・・・文化庁調査官の実査がなくなります。地元で判断に時代に(2024.10.21文化庁)。
- 『日本近代建築総覧』や『日本の近代土木遺産』に掲載されているものや、近代化遺産総合調査や近代和風建築総合調査等により文化財としての価値が明らかになっているものについては、特別に処遇されます。
- 実査後、時間が経過している登録候補については、その旨しらせること。
- 登録決定前に登録原簿への記載事項確認の書類が来ます。書いた所見とは違う向きのまとめ方となっている場合があります。例えば「第三次産業」で推したつもりが「住宅」と分類されたり、「景観に寄与」と思って推したつもりが「造形の規範」だったこともあります。審査時の時勢やその他多くの文化財との比較、そしてかなり主観が入るように思います。よってこちらの見立てを、市町村、都道府県、そして国文化庁の実査官と審査員らへとどうやって確実に伝えるか戦略とプレゼンが重要です。一旦決まるとそこからの変更はかなりハードルが高いと考えられますよ。
一敷地に複数登録は?
一敷地に産業遺産とその創業家があり、一時に登録する場合、民家と工場群なので、別に登録を試みましたが、一体登録をし、名称も「工場屋号(○○家住宅)」となりました。建設当初の一体的な建物群の構成によりそうみなされたようです。
民家としても魅力と工場としての魅力は独立して見て欲しかったとの所感です。
改修や古材利用の再建の際の時代判定
建物調査において、破壊検査ができない場合の問題。
記録や伝聞では明治築、昭和初期に根継ぎして階高等の形状の変更があったとされる場合、根継ぎが実際に確認できなければ一体解体された可能性もあるので、この場合の当該建物の建設年代は昭和初期になりえる。いくら多くを明治の材料を使い、礎石銘板に明治期の刻文があっても一旦、小屋組や柱を解き組み直したら昭和初期の築造とされる。
建ったまま揚げ前をして、根継ぎをしたならば明治築と判断できるという。
こんな指摘と意見の応酬がありました。