違反建築を景観指定できるのか?
行政上景観指定は「国交省系」業務なので、開発許可や建築指導と同じ建築系の役人がとりあつかいます。景観指定という「冠を与える」にあたり、当然適法性がいろんな側面で見えてしまうのは役人の性。
わかりやすいのが「建築確認無しの増築」行為。江戸~戦前に建てられた歴史的建造物に対してその適法性に対しては、「既存不適格建築物」として「甘く」見ますが、戦後の改修や増築に絡んでの適法性にはシビアな目が発せられます。建築確認等のような「確認」や「許可」・「認可」業務においてその「適法性を疑う」ことが習い性であるからいたしかたありません。
ここで、不法性に目をつむると同業役人や適法性を理解して遵奉している正直者に対して後ろ足で砂を吹っかけることにあります。当然ながら適切に処理しなかったら、自分の業務に「不届き」のレッテルを貼られるわけですので、それがないよう、同業役人を納得させられる「証」が必要になるわけです。
景観指定をみそぎに
過去の景観指定ではそんなに問わなかった適法性=コンプライアンスが昨今問われる、そんな時代になりました。
逆にいうと、現在建築基準法・都市計画法等への違法状態や既存不適格状態にあっても、景観指定をしたい行政が、景観指定前の身体検査で適法性をチェックしますので、それをクリアすることで、グレイな建物群を「みそぎ」し、次の活用のステップをしやすくなるとも考えられますので手間はかかりますが大いに役人力を活用するようにしましょう。
また活用に必要な用途許可を得るに当たっても同じ力学が働きますので、こうした「後付け」救済の可能性を、行政に相談しましょう。
不適法な建築行為について
例えば、用途許可を得ずにすでに活用してしまっている、用途変更の際に必要な前面道路の幅員不足、確認申請を受けずに増築等を繰り返しているなどに対して、「そうはいってもその建物による景観貢献や地域振興が大きいとされれば、あらゆる手段を用意します」という自治体もあるということです。
用途許可は敷地内の個別建物の用途変更に際し、都市計画法上の用途の枠を超えて許可しようというもので「建築審査会」(建築基準法に規定する特定行政庁(市長)による許可に関する同意及び審査請求に対する裁決についての議決を行う)を経る必要がありハードルが高い。既存建物がすべて適法であることは希有ですが、何とか地域に資する用途だと、小さいことは大目にみてもらえることを願いましょう。
大きな屋敷での用途変更は複合用途になることも多く、季節によって用途も変わるし、短期間の営業もあり得ます。大きな胸でどんとOKだしてもらえることを祈っています。
あきらめずに折衝するのが大事です。なざならもう自分たちだけの建物ではなくなっているからです。景観はみんなのもの、です。
最近のケース
景観指定候補の建物のある同一敷地で過去に別棟増築工事を行った際に、建築確認通知証や申請副本はあるが検査済証をとっていないという平成初期ぐらいまではよくあった「届出違反」(この場合は完了届)違反での一騒動。完了検査していないので適法かどうかがわからい状況。
すでに飲食店営業中(これは違反)で、今後宿泊施設にもするためにも「用途許可」取得を目指している。「既存不適格」=違反でないが、違反は違反として適法かの確認と最低限必要な適法化(是正工事)をすることを条件に用途許可をOKとする案件がありました。
建築確認時の図面に記載されたものは違反建築、違反箇所でも確認申請を経ているので、本当は違反状態でも是認せざるをえないのが行政の立場なので、せめて「検査済証」をとっていれば違反内容の多くが表沙汰にならなかった可能性があります(当時は確認も検査もゆるかった)。平成初期ぐらいまでは、建築確認は出すが検査済証をとらないケースは多く(都市部以外はさらに多く)、文化財の観光活用ではずせない、飲食、店舗、宿泊系への用途変更のさまたげとなっている。
12条報告ですべてOKへ
さて上記のケースでどうして用途許可を勝ち取ったか?
まず直近の建築確認で是認ししてしまった建築物等は完了検査代わりに建築士が12条報告(既存建築物の状況報告=適法性チェック)を行ってまず検査済証をとったと同じ状態にする。直近の建築確認以後の違反増築等は勿論撤去が原則です。
ということで真っ白な体になったところで、用途許可を申請する。本件は市街化調整区域なので市街化につながる用途は原則NGだが、そこまで市街化に加担しないんだとの程度問題で逃げ口があるので粘り強く説明する。とくに過去例を元にした市街化調整区域でも地域の利便性に貢献する静かな使途(たばこ屋さん、喫茶店、クリーニング屋、駄菓子屋等)になかったカテゴリーの使途(ネイルサロン、占い屋、サラピー、古物商等)においても風俗系や映画館のような類いでないことを示し市街化に加担しないと理解させることが肝要です。
市街化調整区用途許可できるもの
周辺市街化調整区域内の住民が利用する公益施設(学校社会福祉施設、医療施設)又はこれら住民の日常生活に必要な物品を販売する小規模な店舗、自動車・農機具修理場等である建築物
というわけで飲食、民泊(用途上住宅扱い)、物販、その他心身サービス系でも市街化調整区域で用途許可OKとなります。親切な行政マンにも感謝で一件落着。
景観指定と建築コンプライアンス
歴史的建造物の99.9%が既存不適格建築物です。最初の建築後何度も増改移築を繰り返している中で、地域の中で遺ってきたものがほとんどです。地域により戦前、その他の地域は昭和25年の建築基準法施行後の建築行為にはすべて「建築コンプライアンス」の網が覆いかぶさります。(既存不適格建築物は正ではありませんが×とはみなしません)
しかし、建築コンプライアンス上真っ白の状態であり続けるにはかなり困難が発生します。結果的に故意でない「違法状態」である歴史的建造物に建基法を司る国交省系の優遇措置=「景観指定」することに批判的な意見が一定量あり、そういう意見は今、増加傾向にあります。世間一般のコンプライアンス意識が急上昇しているからです。
コンプライアンス上、真っ白に建築物を是正することは難しく、景観指定機関は指定前に身体検査を実施せざるを得なくなっています。今まで脱法推奨型の文化財系の冠をつけた建物でさえ、耐震や防災上コンプライアンスの網をかけ厳正化ている途上ですので、いたしかたありません。
不適法の範疇の中で特に問題になるのが、飲食・宿泊施設の場合で、保健所や消防等の建築系以外への届出や許認可が絡むケースでの相互干渉が厳しくなっています。いつまでも縦割り体制なので「(違法とは)知らなかった」と違反建築に堂々と営業許可出しているようでは、世間は納得しませんから。
景観指定されることで発生するデメリットについては、意識過剰にならざるをえない指定機関とじっくりと協議が必須です。ちなみに戸建て住宅でも建築確認の検査済証が当たり前になった時期は昭和後期以降でしょう。
コンプライアンスの海におぼれそうです。