玉石建て 一般診断で耐震補強 (H28.6.1 改正施行など)

2024.1.1の能登半島地震では前例のない揺れに耐震補強した文化財でさえ倒壊(国重要文化財の旧角海家住宅)。1993、2007、2020、2023と続いた群発地震の後の70秒にも及ぶ激震は無情な結果を残してしまいました。熊本益城町でも15秒+18秒でしたので、この70秒、まして地殻変動(上下動)とキラーパルスといわれる1.5秒の地震波はあらゆる建物を倒壊させました(鉄骨は耐えられたそうです)。伝統民家の重い屋根瓦が揺れの早いときに落ちてくれていたら、危ないなと思っていた老朽化に手当をしていたら、せめて一部屋レスキュールームにしていたら、、、。マグニチュード7.8にあらがえるものを完璧に備えることより、できることは何かを考えています。

ちなみに能登の伝統工法の中での懸念材料は、あまりに緻密できれいな(丁寧な仕事)土壁の竹小舞。地震時に割れながらエネルギーを吸収するはずの土壁が竹小舞への取り付き(接着力)が弱いために揺れに弱く、エネルギーを吸収(減衰させる)することなく一挙に剥離した場面があったそうです。適度に「粗さ」がないと竹小舞の両面の土壁が互いに一体化せず、土壁の耐力が弱くなるということです。能登の伝統建築の問題点だそうです。

(240210「歴史ある建造物の防災」(京都市)セミナー長谷川順一氏講義より)

伝統構法の民家とは

日本建築の伝統的な構法として、「玉石建て」(根石建て、礎石建て、ひとつ石工法ともいう)があります。

古建築以外にも、1971年(昭和46年)建築基準法施行令改正で、コンクリートまたは鉄筋コンクリート造の布基礎が義務付けされましたが、それ以前に建てられた民家などでは多くが玉石建てでした。

現在の構法では、コンクリートの基礎の上に土台を組んで、その水平面に柱を建てていきます。土台や柱を基礎に金物などでしっかり緊結します。いっぽう伝統的な構法「玉石建て」では、地業で突き固められた地盤に玉石と呼ばれる石を据え、その上に柱を建てます。

 

左:玉石建ての建物に「ベタ基礎」という鉄筋コンクリートの皿を地下につくるためにこうして建物全体をジャッキアップします。半解体の建物を下からゴッソリ上にあげてから、その下にしっかりとした基礎をつくります 右:ジャッキアップ前に土壁や屋根瓦を取り除いた状態。一時的に「筋違×」をいれて建物が倒れないようにしています。まだ玉石が見えますね。この後、足下を大きな木材や鉄骨で固めてジャッキアップの準備にかかります。

マッチ棒をひっくり返したような状態で地面に立ち、それらは、2階床面付近で、差し鴨居や胴差などでつながれその間に木の貫と竹の小舞を下地に土壁を付けて自立しています。この伝統構法は現在の耐震診断(一般診断/保有体力計算)で判定するとほとんどが「倒壊する可能性が高い」との結果が出てしまいます。伝統構法は壁が少なく、コンクリート基礎がないため自沈に耐えづらいとの判断がなされるからです。(ただし、「限界耐力計算という違う概念の診断」を行うことで、クリアできる場合も多いですので、予算に余裕があればお試し下さい。)

こうした低い評価をつけられ「倒壊する可能性が高い」とされた伝統構法「玉石建て」の建物を「一般診断」での耐震補強するには、新築並みの耐力を加えるしかありませんす。

現在試行錯誤して行われている補強方法は、
「建物をすっかりそのまま一段上に上げて(揚げ前)、玉石を捨て去り→鉄筋コンクリート基礎を打ち→木の土台を基礎に緊結し(金物で)、土台のうえに柱を載せ、現行基準法通りに軸部補強と耐力壁増強をします。」といった大工事になります。

021210奈良市の古借家 伝統構法 玉石建て 土壁

ようやく建っているような土壁の家 築90年以上と思われる
メンテナンスも放棄された奈良市の借家

そこまでしたくない場合、たとえば、公の耐震補助をもらうことを前提に、「一般診断」での評点1.0を目指すならば、

0.建物の腐朽・風化で「劣化」した部分を、必ず補修した上で、
1.玉石のまま土間コンを打って玉石を固定する。(脚部固定1)→玉石からの転げ落ち防止にもなる
2.足固めを付け、たすき掛けに足固めと大引き間に筋交いを付ける。(脚部固定2)→柱を踊らせない
3.既存の仕口・継ぎ手に金物補強をする。(緊結部分を信用しつつも念のため。N値チェック必要)
4.2階床、小屋などに火打を設けるか床の水平構面を作るため床板を構造用合板に張り替える→木造建築物の床組及び小屋ばり組に火打ち材を設けない方法を追加する。床組及び小屋ばり組に木板その他これに類するものを打ち付ける基準を定める件(平成28年国交省告示第691号)により、構造用合板や火打ちでなくてもOKになりました。(横架材に適切に付けられた一定の厚さ・幅の木板などが床組等の変形を抑える役割を果たすとの考え方です。
5.既存壁の補強。(筋交いや合板張り+金物補強)→全面に土が塗られていない土塗り壁の仕様追加として、従来、壁倍率が与えられていなかった全面に土が塗られていない土塗り壁の仕様の種類を追加(H29.9.26 公布・施行、建築基準法施行令第46条第4項表1(一)項から(七)項までに掲げる軸組と同等以上の耐力を有する軸組及び当該軸組に係る倍率の数値を定める件(昭和56年建設省告示第1100号))
6.それで足らなければ、新壁増設。(筋交いや合板張り+金物補強)

>>伝統的構法データベースhttp://www.denmoku-db.jp/publics/index/19/

これでも、多くの場合評点1.0が無理なので、

7.瓦屋根の土を載せない「空葺き工法」に葺き直すかもっと軽量にする(軽量瓦や石綿スレート。金属板葺きが一番軽い)。これは評点を上げるのに効果絶大。但し、建物の「風貌」が一転する問題があります。
8.躯体増強のため添え梁、添え柱を付ける。(軸力増強、折損防止)
9.デッドスペース覚悟で壁増強することも視野に入れる。(押入や縁側を構造補強コアとする)
10.大開口に対して門型フレームやアルミフレームをRC基礎とともに布設する。

さて、これぐらいして、やっと評点1.0をクリアできるでしょう。が、残念ながら原形がわからなくなるまで膏薬を貼ったが如くの補強になってしまうことは明らかです。

玉石建てのよさ、空間の開放性、躯体が見えるメンテナンス性などはすべて失うことで耐震性を手に入れることがでるのですが、もし、誇りある伝統構法のよさを残したいなら、上記の建物の壁強さに頼る一般診断による補強方法は、どうやら正しくないようです。

さて、それならば、どうすればいいのでしょうか?