古文書調査の手引き

文献調査に挑む

ある日継承した建物を登録文化財にしようかとなったとき、多くは同時に家歴調査を行います。登録文化財は建造物そのものの文化財性(意匠や技術)を価値付けする以外に、建物の建設経緯に触れ、地域や時代に対してのその存在の位置付けも必要になるのがほとんどだからです。

140413文書サンプル

棟札がみつかれば、時代や建築主がほぼ確定できます。が、ひいおばあさんがこう言っていたなどのかすかな口伝ぐらいでは実証とはいえません。

そこで、古文書などの史料を保存・活用していくためには「整理する」という作業が必要になります。よほどの家系なら大学や行政が文献調査をかってでてくれ、費用負担無しで文献の分析、ひいては学術論文まで引き受けてくれます。

が、それほどでない場合は、自力である程度整理して、価値ありげなものが発見出たらはじめて、地域の文化財課に相談してみるといった経緯をたどります。

時折、郵便受けにチラシを入れる古物商などが蔵のお宝を調査してくれる場合もありますが、古物商も商売ですので、必ずしも所有者の要望に叶う選別をしてくれるとは限らないので気を付けましょう。

地域の文化財課や大学、研究者、図書館などで地域のすでに調べられた文書にどんなものがあるかをヒアリングしてみるのが初心者にとっては入りやすい文献調査の入口です。

さて、文献整理といっても、「文字が読めない」場合いがいは、通常のビジネス文書の整理と大きくは違いません。できるだけ収納されていた意味を汲み取りながら効率的にできれば分類、できなければ、それぞれの文献の後追いができるように、整理後の住所を与えながらまずは悉皆的に大項目を確認しながら名札を付けて名札のある封筒や箱に整理していくことになります。

数量が多い場合は、収納されていた固まり毎に束にして整理していって、全貌が見えてきてからさらにどの束の細整理するか考えていく過程を経ます。

何度かこの作業をすると、およその日程(人日)が組めますので、目標を決めて取りかかりましょう。

用意するものは、習字用半紙、鉛筆、調査表、カメラ、封筒、小箱、中箱、大箱、防虫剤、紙縒り、刷毛、スケールなど。

史料に番号を付ける

史料の入った箱やタンスの引きだしが複数あるような場合、まず中身を今後の収納用の箱に固まりで移しその箱に番号をつける(住所をつける)。元に戻す場合は、その収納場所に番号を付ける(付箋などで番号を記し、とれないように貼付ける)次に「1」と番号を付けた箱の中に入っている史料のうち、いちばん上にあったものを「1-01」、二番目にあったものを「1-02」というように、上から順に番号を付けていく。中には、封筒や紐などでグループになった史料があれば、そのひとかたまりをたとえば「1-03」とし、その中の史料にさらに枝番号を付けて、「1-03-01」のようにするのである。

史料そのものに名札がいるので、紙切れを史料に挟む、数字を書いた封筒に入れるがこの際、決してのちに消えるインクペンや、劣化や変色の恐れのあるポストイットや糊・接着剤を使わないようにしましょう。こうした史料に触れる紙類は、中性紙(酸性でもアルカリ性でもない中性の紙)を使用するようにしましょう(ネットで購入できます)

史料を撮影する

史料を撮影するときは、三脚などを用いてカメラを固定して撮影しましょう。整理で史料につけた番号札や史料を入れた番号の書かれた封筒などを史料と一緒に写すようにすることが重要です。写真データに史料と同じ番号を付けておくと写真の検索が楽になるのでお薦めです。

140413文献資料の整理 古文書調査 デジカメ撮影

リストを作成する

リストは、史料の表題(名前)や、わかれば年代、差出人(作成者)、宛先、史料の形態、キーワードなどを記録するもので、史料の現物を見ながら作成してもいいが、撮影を先に済ませてPC環境を整えてじっくり取り組むこともできる。史料と現場で向き合う意味は大きいがリストへの入力は非常な集中力が必要になるので覚悟して取りかかりましょう。手書きリスト組とPC入力組に分かれる方法もある。今時は音声入力やリモート調査も可能なので状況に応じて文明の利器も活用しましょう。

リストはExcelやデータベースソフトで作成し、写真やPDFにリンクを挿入しておくと、検索がうんと楽になります。今後文献の実物を確認したり、展示したりする際にも助かります。

文書をよむ、釈文の問題

ここが文献整理の醍醐味だが、大概はここでお手上げになります。まずは読める人をみつけましょう。自分でなんとかしたい場合は、「くずし字解読辞典」、「くずし字用例辞典」が役にたちます。

くずし字解読辞典– 1993 児玉 幸多 (編集)
文字や部首の検討さえつかない文字の解明はこちら

くずし字用例辞典– 1993 児玉 幸多 (編集)
部首の判別がつく場合はこちらです。

古文書の活用

文献を所有する家系やその地域の歴史を表す文献ですので、できる範囲で公開し、他家の研究に役立てたり、郷土を知る史料として展示公開することも考えられます。主要な文献とリストを合せた文献解説を冊子にすれば、地域の図書館に置くこともできます。