登録文化財の所有者と相続

兵庫県(仮)の登録文化財の所有者で一人暮らしです。もう年ですので考えていることがあります。

和歌山県 重文中筋家住宅 主屋から見る長屋門2

重文中筋家住宅 主屋から見る長屋門

国登録有形文化財全国所有者の会(全国登文会)>>

維持するだけでも大変ですね。ここは所有はもとのまま、無住であったものを整備し、市が管理・運営しているようです。文化財指定を受け、税金面などの免除があるほか、工事費の補助も手厚いようです。重文ですので固定資産税などなく、維持管理を市にゆだねていることで、所有者の負担はだいぶ軽減されるようですが、きちんとした計画をしてから文化財化指定は検討しましょう。登録文化財と指定文化財には大きく違いがあるので詳しくは自治体の文化財課か文化庁に尋ねてみることが大切です。みなさんとても親身に対応してくださいますよ。

祖父が建て、家族の思い出いっぱいですので、大事に維持してまいりました屋敷ですが、私の死後、住んでくれる後継者も相続人もいないので、このままでは国のものとなると聞きました。

考えた末、長年に渡る親族同然の方に遺贈しようと思います。

ただ、相続人と言えば、長年会っていない姪がおり、遺贈した方とのあいだに争議をおこさないかと心配です。

遺贈に際し、どのように伝えればこの屋敷を末永く残すことができるでしょうか?

また、今からでもできる対策を教えてください。

【答え】

相続財産評価額を3/10控除

まず、登録文化財の少ないメリットの中で一番効果の高いものが、「相続税を決める資産のなかで、建造物とその敷地の「相続財産評価額」を3/10控除(実際の評価額の70%とする)」です。

2015年に相続税の控除金額が大きく引き下げられ、今まで相続税対策の必要なかった多くの方々が納税しなくてはならなくなります。築50年以上の登録文化財の建造物そのものの評価額は少ないですが、とくに市街地では、土地の評価額は大きく、実質的節税効果が見込まれます。

ただ、建造物はともかく、その敷地とはどの範囲まで認められるか?は、課税する側(管轄する税務署)の判断となるようですので、一概に建造物の建っている全敷地を指すわけではありませんので、ご注意下さい。

より広範囲の敷地を対象に税控除を促すためにも、もし歴史的に貴重と思われる庭などがある場合「登録記念物(遺跡、名勝地、動物植物地質鉱物の三種類)」にすることで、控除される対象の土地が広くなります。

さてこの相続税の控除効果は遺贈の時にも効果があるか・・・ぜひ税務署に確認してください。税務署は個別の質問に対しては正式な手続きをへて返事をくれますが、相続時の判断とかならずしも一致するとはかぎりませんということです。

姪御さんの相続権と遺留分

姪御さんの相続権については、あくまでも個別のケースとして弁護士さんなどの確認が必要ですが、一般的には、父母、祖父、配偶者、子、兄弟がいない場合、甥と姪までが相続権があります。仰せの姪御さんが相談者の兄弟(姉妹)である親の権利を引き継いで遺留分を請求できますので、注意が必要です。あらかじめ相続放棄に同意してもらうか、争議を起こさないために丁寧な説明やある程度の遺留分を用意しておくことが必要かもしれません。こうした相続人が複数見つかれば、屋敷を売却して相続税を準備しないといけなくなる場合もあるにあるので大いに注意が必要ですね。

登録文化財の活用 岸和田五風荘 がんこずし屋敷シリーズ「五風荘」2
登録文化財の岸和田五風荘 がんこずし屋敷シリーズ「五風荘」

 登録文化財の岸和田五風荘はがんこずし屋敷シリーズ「五風荘」として大改造して営業中

屋敷を遺贈されるに際して、思うのは、遺贈を受ける方が、現在の所有者の意志を十分ご理解されているかどうかということ。また何よりもどのように維持していくかの道筋を示しておかれないと、ただ遺贈されてもいずれ廃屋かマンションと化す結果になってはいけません。

今までも屋敷の維持管理には大変な出費がともなっていたことでしょう。日頃の手入れや小修理、庭木の手入れに加え、十年ごとの設備や劣化による中修理、5~70年ごとに訪れる瓦の葺替えや木部の大修理、またそれとは別に安全に建物を使うための耐震改修やより活用するため、たとえば、カフェや一棟貸しの旅館のような積極的な活用には大きなリフォームが必要になります。

遺贈される方のためにも、そうした資金や資金を生む別の資産(賃貸物件や駐車場)を同時に遺贈されないといけないかもしれません。

130916舞子木下家住宅のサンドブラストの硝子

活用団体

最近はそうした歴史的な建造物を上手に生かす手腕をもつ企業体もあります。広く見渡して現実的なシミュレーションを行い、今までその姿を残してこられた年月分をまた同じだけ後の世に残せるように考えていきましょう。

ほかに、あらかじめ組織を作り、維持活用を行う「財団法人」化を準備するとか、地域団体への寄贈、日本ナショナルトラストへの寄贈、大学などの教育施設への永久貸借なども例があります。

また、登録文化財の利活用には、『この建造物は貴重な国民的財産です 文化庁』と登録プレートに書かれているのでわかるとおり、登録した国の責任もあります。

都道府県の文化財課を通じて他の施策と併せて、建物のある地域の理解を得て、国の宝としての余生を考えることが必要です。こういうときだけに限らず、日頃の手入れについても「文化財課」と連絡を絶やさず、指導をうけておくことをおすすめします。

何より、我々地域のヘリテージマネージャーなどのネットワークも活用してください。