古民家の特徴のひとつが置き土
平屋やツシ2階の民家の小屋裏(1階の天井裏)に入るとちょっとした倉庫になっていることが多い。1階天井が小梁(大引き・ささら)と床板を見せた「大引天井」ならその上は使用人の寝起きする場である場合もある。(根太があれば根太天井)
土床の利用法
小屋裏には、茅葺き時代には葺き替え用の「茅」、その後も燃料用の「柴」など比較的軽いものを収納していました。養蚕が行われる地方の民家ではこうした小屋裏は蚕を養う場所でもありました。また、下男など使用人らが寝起きする場所としても使われたと思われます。(竪穴式住居のときに扠首組屋根の直下が土であった名残とも?)
ここでは、その床の仕上げがなぜ土塗り仕上げの「置き土」になっているかを考えます。
置き土をはがすと何が現れるでしょうか?
筵【むしろ】か、竹簀の子、筵の下にはやはり粗く竹簀の子があります。そうした置き土民家の場合、大屋根の瓦下地も竹簀の子の場合が多いと思われます。竹を使う理由は竹が身近に入る丈夫な建築材料だったこと。木材を板に割ったり伐ったり(製材には刃物が必要)することは高く付くため竹が選ばれたのでしょう。
民家をつくる材料は木と草(茅葺きの場合)と土がベースですが、竹も欠かせません。竹のある地域では必ず竹が使用されます。成長が早く、軽く、丈夫だからです。竹を編む縄や麻緒など植物繊維はセットで使われます。大工さんでなくとも寸法も自在、いろんな太さの竹や笹をうまく選別して、木の代わり、布の代わり、釘の代わり・・・と適材適所に使用できます。
竹の弱みはなんでしょう。
竹を喰う虫と、水です。
電気やガスが普及するまで小屋裏は、かまどや囲炉裏の煙で常にいぶされた状態にありました。煙・すすには防虫効果があり、また煙に含まれる油分で竹の粘りもほどよく続き、ほぼ恒久的に竹はもつ(くさらない、劣化しない)材料だったのです。
竹をつかった床や天井のわけはもうひとつ、竹はしなやかに「しなる」特性があります。一本ずつでもそうですし、半割、四割・・・、と縦に裂いたり割ったりして強度を加減しながら、土壁の下地や床下地・屋根下地になります。しなりにくい木よりも垂木や根太など下地がいい加減でも、添わせることが容易です。少々の誤差、不陸は竹のしなりでなじんでしまうのです。
丹波市青垣の藁葺き民家 ツシ2階 土天 置土 竹下地
置き土の施工
しかも「置き土」では、その上にスサを混ぜ込んだ土(泥状)を載せて塗り込めてしまえばいいわけで、その上でビリヤードをするでもない限り、少々の床仕上げ面の波打ちは何らかまわないわけです。茅や柴置き場には最適で、十分です。
しかも天井の上の置き土床にはほかの効用もあるといわれています。ひとつは断熱、もうひとつは防火いわれています。たしかに天井裏に数㎝(3~10㎝)土が載るわけですからそうした効果が期待できます。
茅葺き時代には燃えやすい茅に火が移り火事になったことは容易に想像できます。土を載せておくと、屋根組や茅が燃えてしまっても土天から下が燃え残ったこともあったかも知れません。(土天は土床のことで、土で塗り上げた「土天井」は別です。)
重量が増すこと=耐震性に不利なのは確かですが、木組みに対して適度な荷重はプラスに働くこともあります。(置き土を一気に取り払ったために100年以上の構造バランスが崩れてあちこちの木組みが緩んでしまったケースもあります)
床板の上に置き土のケース
竹簀の子の床を補強し、ものを置きやすい床を形成するために土を置いた置き土ですが、近世大判の板材が普及してからも置き土が行われているケースも多くあります。床板で十分床をかたちづくっているのに、あえてその上に土を載せるケースです。
置き土のデメリットはなんでしょう?
土ですから、まず重いこと、そうして土埃の原因になることです。重いと耐震性が悪くなりますし、風が舞うと階下に土が降ってきて汚れます。雨漏りを放置した状態では、湿気を含み、木部腐朽を呼びますし、現代の衛生感覚からするといかなる動植物が共棲していても不思議ではないといった点でもデメリットがあります。
民家調査で頭の上に土があるかないかをとても気にするようになった昨今。あなたの家の小屋裏はいかがですか?