2021文化庁「登録文化財の手引」発刊
ようやくできました。
文化庁 登録有形文化財(建造物)の手引1(登録に向けた資料作成)>>
下記は、いままでの経験から登録の所見作成に必要な調査についての説明です。取り入れるべきところありましたら参考にしてください。
0.調査目的
登録候補建造物の文化財としての価値の証明
登録基準を満たすか否か
- 50年を経過
- 3つの基準(歴史的景観に寄与、造形の規範、再現困難)
文化財として
- 歴史的特性(建築年代を含む)
- 構造・意匠の特性
文化庁で望むもの
「4行解説」(約120字)の作成に必要な情報・・・セールスポイントがぶれていないこと
「審議会」での説明に必要な情報・・・短時間にみてわかる資料
- 歴史的沿革(建物の成り立ち )
- 集落の成り立ち
- 構造形式
- 建築年代
- 文化財としての特徴
- 指定などの有無(史跡指定、エリア指定など)
- 今後の活用方針、維持の意思
- 改修遍歴
1.調査の前に準備するもの
建造物の基本的なデータとして下記を用意してから市町村もしくは都道府県文化財課に相談します。下記は専門家でなくても用意できると思います。専門家については行政が紹介してくれます。
名称、建物の数・種類、それぞれの建築年代、構造形式(木造とか)、所有者の分かる証明書(住所氏名、公図・登記事項証明など)、所有者の許諾、建物の履歴(わかる範囲で)、内外観の写真、できたら図面、なければネット地図、あれば特別なエピソード、今後の活用方針
2.調査方法
文献調査・・・・県や市町村史、その他出版物、パンフレット、土地建物・所有者の登記簿謄本
古文書調査・・・家系図、過去帳、地域の庄屋などにのこる客観的な資料、建築・修理年代等の記録を探す
WEBで調査・・・地図、写真、デジタルライブラリー
聞取り調査・・・所有者等へのヒアリング
- 建物の沿革について
- いつ、誰が、どのように建てたか
- 「寺の過去帳」、「土地台帳」、「納税記録」など登記簿(コンピュータ化前のもの)の確認
- 建物の変遷について、家系図などに基づいてわかっていることを整理
実測調査
- 平面(断面)図作成のための調査(時代や地域性を示す特徴をさぐりながら)
- 構造形式等の確認
年代調査(文献調査等と併用 )
-
公的に証明可能な年代については、
■「固定資産税課税証明書」に築年数を記載してもらう方法(市町村納税課)
課税台帳(納税確定時に聞取り調査をしており、口伝によるがおおよその年代がわかる場合がある)(市町村納税課)
■「登記事項証明書」築年や所有者等の変遷が分かる
■「閉鎖登記簿」コンピュータ化前の土地台帳等で築年や構造規模、用途、所有者等の変遷が分かる(法務局、登記ネット)
■ただし、複数棟が一括登記されていたり、柱と屋根だけの建物や塀、門などの工作物は登記対象ではないので探し出せない場合が多い。 - 集落の成り立ちに関しては、資産税課か法務局で字限図(あざかぎりず)の集落全図を入手しましょう。旧字名は歴史を背負っていて一時代前の光景をみることができます。(字限図:別名「字図(あざず)」若しくは「字絵図(あざえず)」、「分間図(ぶんけんず)」、「改租図(かいそず)」、「公図」、とも呼ばれていて地租改正条例の施行に伴い明治9年から明治14年頃にかけて大字又は字を単位に作成。その後明治19-21年頃までに更正された地押調査図の呼称)
- 棟札、墨書の確認・・・みにくい場合は赤外線写真が有効(某市では文化財課が協力してくれました)
- 文書に「勘定帳」、「見積書」、「普請帳」などがあれば工事にからむお金の出入りがわかる。
- 近隣の古文書に当該建物についての情報がでていることがある。
部材の確認
- 寺社系なら絵様、文様の確認
- 丸釘、角釘の確認(特殊な場合を除いて角釘・和釘は明治初期まで。地域によっては明治40年頃でも和釘をつかってるとのことです)・・・明治6年に洋釘/丸頭の釘が初輸入(西澤英和先生の著書耐震木造技術の近現代史: 伝統木造家屋の合理性によれば「明治末期に農商務省製鉄所での伸び線/線状の鋼材の生産が軌道に乗るまでは、洋釘は輸入に頼らざるを得なかった」とある→輸入品と和製洋釘の見分け方は→研究資料あり「和釘から洋釘へ-製鉄技術の転換」(「住と建築」2002.1))
- 風蝕、煤け、ヤケ等(蔵は案外、中がきれいで時代判定が難しいので、他の技法を調査しましょう)
- ガラスの種類・・・メラメラガラスの様子、ガラスの判型(建具が後に入れ替わっている可能性も多い)、硝子入り建具は後補も多いので注意、建具金物も調査資料あり
- 瓦の種類、刻印、へら書きなど(地域の瓦博士に確認/明石の瓦調査、奈良中南部の瓦調査等)
- 石や木材加工道具(鉋やちょうな)からの時代考証
建築設備の確認・・・電気・照明、電話、水道、避雷針、空調設備などで近代化の足跡をみる(電話室、分電盤、灯明道具、電気碍子、ガス灯の痕、衛生陶器やタイルの時代考証)
床柱の形式、床の間の位置(ひな形集などその時代の文献も役立ちます)
屋根構造の確認
痕跡調査
- 建物の変遷を明らかにする(改造過程を痕跡から実証 )
- 技法を知らないと見えない(柱に小舞穴のない小舞壁)
- 当初の痕跡と後補の痕跡を見極める(複数の時代の痕跡)
- 経験が必要
部材調査・・・当初材、後補材
- 地域による部材の特徴、外材の有無(大正~台湾、アメリカから輸入が急増)
- 煤け、ヤケ、風蝕
- チョウナやカンナ、丸鋸など道具で時代がわかる
瓦・・・役瓦の篦書きや刻印(瓦の窯元、瓦師名、年代など)、文様や瓦のそり具合(しのぎ)で時代がわかる
組み物の絵様・・・写真で比較、場合によっては乾拓をとる(濡れ物による調査はNG)
復原図・・・改変が多い場合、ポイントを絞って痕跡調査し、当初図・変遷図を作成。
登録文化財調査のしかた2>>