京都簾戸探訪
2016年初頭の「京都簾戸探訪」では、大津の簾屋さん、京都の古建具屋さんと簾屋さん三軒を巡りました。
古建具屋さんでは、古建具のコレクションの多さで度肝を抜かれましたが、さすがに現場にしっくりするものがすぐ見つかるということも難しく、建具の寸法直し(切り縮めや下駄はかせなど寸法合せ)にしても溝寸法により「見込み違い」(文字通り)を理由にしてもなかなかしっくりくるのがなく、折良く在庫のあった簾戸用の簾にぬか喜びするも、汎用簾戸用とあって織り間(織り糸の間隔)があわない、もしくはその精度に問題、また葦の品質がいまひとつ、といったわけで価格的には折合いがつくものの結果、断念。
続く簾の老舗では店先の飴色の簾戸とは対照的に近年の葦のストックの色味がイマイチとあって、これも断念。次の店では建具作りの肝を丁寧にヒアリングでき、織機での錘のかけ方までお教えいただき、ここが安心でリーズナブルとの判断。もうひと店は現地寸法採りから立て込みまで責任施工とのことで心傾く。
大津の簾屋さんでは、簾戸4枚で26万円ほどとのこと、日常の道具としてのお値段だと思います。過去にとれた40年ものの葦のストックがあるものの、琵琶湖自慢の「みろく葦」はもうとれないんだそうです。
結果二店舗であらためて見積をいただいて施主さんの意向を確認して発注することになりました。楽しみです。
琵琶湖の水質問題と葦
どのお店も琵琶湖の水質等の問題でまずいい葦が如実に減っていて簾の注文に対して葦のストックがないのが頭の痛いことのようで、次に継承者不足、そして今まで培ってきた伝統的な感性が少し惰性というか形の継承になってしまっているのではとの思いがよぎりました。自分自身が感じる京都らしさが思った以上に奥深く、見た目だけの継承を望むのが恥ずかしいとの感慨もあり、いい簾戸探検ができたことへの感謝と共に、研鑽せねばとの旅後感です。
天津簾が100均で手に入ることに慣れてしまったために、簾産地の生産者さんや町の簾屋さんが廃業し、現在は本当にこだわりのある店だけが残っています。その天津簾も中国の経済成長の影響で安易に入りにくくなっているそうで、ではやっぱり国産を使おうと思ったときにはもう手に入らない・・・といった自体がおきているとの怖い話。
奈良では葦障子と呼び、土地柄桧枠でつくることも多いそうです。大坂風か太めの葦をつかった「節なし縞柄」にするか、細い葦を使い桟の半ばでもうひと筋織り糸みせる華奢なものかいずれかが多いとうかがいました。
琵琶湖と環境: 未来につなぐ自然と人との共生
琵琶湖を取り巻く自然と環境、そして人々を含めた生き物の話などが詰まった一冊。読んでいくうちに20世紀後半の功罪を考えずにはいられない。2015/6/12
琵琶湖と環境編集委員会 (編集)
大坂鵜殿の葦
大坂の簾店によると、橫張りは江戸、竪張りで節をみせない、または縞合わせするのが大坂流、節をランダムにするのが京都風らしい。大坂のかつての葦の産地は文字通り「芦原橋」近辺で戦後には簾屋が20軒もあったといいます。
淀川の葦のなかでも「鵜殿の葦」と称される枚方市鵜殿を産地とするものが良質で、大形で太く弾力性があり、雅楽器の篳篥【ひちりき】のリードとして戦前までは、宮内庁に献上されていたというほど。その高い繊維密度が音色にかかせないようです。
淀川右岸河川敷が鵜殿の葦の群生地
材料を豊富に使う「節なし」(節を桟に隠す)が最も高額で、次に「縞合わせ」、そして「ばら」となります。最近では葦戸を作ったことのある建具屋さんも減ってきており、簾の差し込みを簾屋さんがすることもあるそうです。押さえ縁の煤竹の取扱に関しては末のものほど節高いのが竹の特性です。民家の簀の子天井でいぶされた煤竹が底を突く時代に、燻製して着色した製品がメジャーです。味気ないながら建具に用いるときには節も低く現実的でもあるとうかがいました。
環境、技術、財力、文化・センスがそろわないとすかっとした建具はできません。いろんな条件を具体的に消化して取組むべき建具といえます。
簾について
用途にも寄りますが、一般的には葦の元・末を互い違いに丈夫な綿糸で織っていきます。締め具合は錘で加減し、糸の間隔が狭いほど丈夫になります。巾を決めて編むときには両端に節をもってくるようにすると、簾としてうんと丈夫になります(少し高い)。お茶室用の皮付きの簾はその皮が年を追って落ちていく哀れをわびさびととらえています。
縁先など風雨にさらされるところには中が詰まったガマを使った簾がおすすめだそうです。
奈良盆地米川に茂る葦 川筋の葦の残る景色は近世をしのばせる
冬に簾戸とは
秋から冬にかけて立ち枯れしているススキや葦を見ると夏障子のことを思います。その土地に昔からある自然の風景も河川や護岸改修で見ることが少なくなりましたが、水質の改善、生態系の復帰と同時にこうした葦の原がいつまでも目にできることを祈っています。
簾戸を使う時期は?
京都の従来の暦では、襖や障子を簾戸や御簾に替える時期は着物の「単衣」と同じ「6月初日~9月末日」です。そう制服の衣替えを思い出します。
しかし現在の気象変動で、体感上の「夏」が前後に1ヶ月以上多くなった昨今、簾戸が爽やかに感じられる肌感覚でしつらい替えが行われつつあるのが現状です。